Neurological Surgery 脳神経外科 47巻4号 (2019年4月)

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 昭和50年代の初めであったと思うが,本欄に私の恩師である横浜市立大学脳神経外科初代教授の故・桑原武夫先生が原稿を依頼されたことがあった.そのとき先生は「手術に関する哲学のようなことを書こうと思うのだが,タイトルはどうしようか」と私に尋ねられた.私は即座に「鷹の眼,獅子の心,貴婦人の手(Falkenauge, Löwenherz, Jungfernhand)はどうでしょう」と答えたところ,先生は「それもよいね」と言われたものの,多分このタイトルでは余りにもありきたりだと思われたのであろう.結局「お茶の精神」というタイトルにされて,お茶のお点前のように淀みなく流れるような手術が理想だという趣旨の随想を書かれた3)

 私がFalkenauge, Löwenherz, Jungfernhandを初めて教わったのは東京大学医学部の学生の時で,脳神経外科初代教授の故・佐野圭司先生の講義においてである.佐野先生は,「ゲーテが自分を治療してくれた外科医に捧げた詩の中に,このような一節がある」と言われながら,その詩のほぼ全文をドイツ語で紹介された.先生の教養の深さと見事なドイツ語の美しい響きにすっかり感動した私は,この3つの言葉はゲーテの詩が原典なのだと思い込んでしまった(佐野先生がそのように言われたわけではない).その後に色々調べてみたところ,ゲーテの時代よりも1〜2世紀前頃のヨーロッパで,これらは「理想の外科医の資質」として広く言い伝えられており,原典は不明であった.“Jungfer”が“Jungfrau”になっているものもあり,3資質の順序もまちまちに伝わっているが,私が表題に挙げた語順にはForte-Fortissimo-Pianoの音楽的抑揚があって一番美しいと,これまた勝手に私は思い込んでいる.

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Ⅰ.はじめに

 近年,日本は世界に例のない速さで高齢化が進み,どの国もこれまで経験したことがない超高齢社会を迎えた.さらに,「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となる2025年には,全人口に占める後期高齢者の割合が約18%に達し,65歳以上の高齢者の割合は30%を超えると予想されている.高齢者人口の増加に伴い,高齢者に特有な疾患の診療機会の増加が予想される.例えば,高齢者の原発性脳腫瘍の代表格である悪性神経膠腫については,患者の平均年齢は65歳であり,75歳以降の後期高齢者層で最大の発生率を示すと言われている25)

 一方,高齢者層は,健康な人から要介護状態の人まで,さまざまな健康状態の人々で構成されているという特徴もある.健康と要介護状態の間には種々の段階の虚弱(フレイル)状態の人が存在する.すなわち,寿命の延伸とともに,高齢者層は身体的・精神的・社会的に非常に多様化しているのである.高齢者層の多様化に伴い,これまでのように疾患と年齢だけで治療適応や予後予測をすることは困難となりつつあり,高齢患者に関しては,今までの治療ガイドラインでは対応が不十分となる可能性がある.本稿では,フレイルについて概説するとともに,脳神経外科領域の各疾患とフレイルとの関係について,特に高齢者に好発する疾患を中心に解説し,その問題点についても提起する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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Ⅰ.はじめに

 島領域のグリオーマ(insular glioma)は,比較的深部に位置することと,周囲に重要な構造物が多いことから摘出が困難である.島を覆う弁蓋部皮質および周囲白質線維には,運動機能に関わる領域や,優位半球であれば言語機能を有する領域が存在する.また,中大脳動脈やその穿通枝が島の表面や内部,深部を走行しており,損傷により運動障害を来す恐れがある.それら重要構造物を温存しながら摘出を行うのは困難を極めるが,グリオーマにおいては摘出率を上げることにより予後改善が見込めるという報告が多く12,15,16,20),insular gliomaにおいても例外ではない7,13,19,23).近年,ナビゲーションや電気生理学的モニタリング,術中蛍光診断などの手術支援装置の発展により,insular gliomaにおいても十分な摘出が可能となってきているが7,17),合併症を来さない範囲で可及的な摘出を行うためには,周辺の解剖を把握した上で手術を行う必要がある.

 本稿では,島および周囲構造の解剖について解説した上で,解剖に留意したinsular gliomaの手術について自験例を示しながら解説する.

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Ⅰ.緒  言

 Anterior condylar confluent dural arteriovenous fistula(ACC-dAVF)は従来稀な疾患とされてきたが,画像診断や疾患認知度の高まりにより診断される頻度が増えてきている.その症状としては,耳鳴り,眼症状,舌下神経麻痺などが報告されているが,頚部痛を症状としての報告はない.今回われわれは連続症例として頚部痛を認めるACC-dAVFを経験しtransvenous embolization(TVE)にて症状消失したことより,これを報告する.

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Ⅰ.はじめに

 慢性硬膜下血腫は脳神経外科医にとって頻繁に経験する疾患であり,穿孔洗浄術を行い良好な経過を得ることが多いが,再発に遭遇する機会も少なくない2,4,10,16,17,28).さらに,再発を繰り返す難治性慢性硬膜下血腫も存在し,治療に難渋することがある3,6,8,18-20,24)

 近年,神経内視鏡を用いた穿孔術や小開頭術が施行され,良好な治療成果が報告されている9,11,12,27).しかし,内視鏡下では視野の確保が十分でなく,さらに局所麻酔下に手術する際の患者の体動に伴う脳損傷のリスクがある.2016年4月より長崎大学病院では体外視鏡(exoscope)であるVITOM(the video telescope operating monitor)teleccope(Karl Storz,トゥットリンゲン,ドイツ,Fig.1)を導入し脳神経外科手術に応用している.今回,われわれは隔壁を有する難治性慢性硬膜下血腫に対し,exoscopeを用いた小開頭手術を行い,良好な治療成績を得た症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 皮質静脈への逆流を伴った海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻は早急な治療を要する症例が存在する.脳血管内治療は選択肢の1つとして挙げられるが,アクセスルートの狭窄・閉塞により海綿静脈洞部への到達が困難な症例がある.痙攣重積を来した海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻に対して血管内治療での根治が得られなかった症例に開頭流出静脈遮断術を行い,良好な経過が得られたため文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 特発性低髄液圧症候群に対する治療は,「脳脊髄液減少症ガイドライン2007」では安静臥床と水分摂取での保存的治療が優先され,保存的治療で症状の改善が得られない場合に硬膜外自家血注入(epidural blood patch:EBP)が推奨されている7).しかし,EBPを複数回施行することが必要な症例や,複数回行っても脳幹の下垂が進行し,重篤化する症例が報告されている11,12).今回われわれは,ワルファリン内服中に発症し,ワルファリン拮抗後にEBPを行うことにより治療し得た重症低髄液圧症候群の1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頭血腫は児頭が産道を通過する際に,外力により頭蓋骨骨膜の一部が剝離されて骨膜下に生じる血腫であり,全分娩数の1〜2%に生じるとされる5,6).吸引分娩や鉗子分娩,分娩外傷に伴って発生することが多いが,正常経腟分娩でも起こり得る5,6).産瘤との鑑別が必要で,産瘤は皮下出血のため縫合線を越えて拡がるが,頭血腫は骨膜下に生じる血腫であるため,通常縫合線を越えて拡がることはない5-7).生後2〜3日で柔らかい腫瘤として顕在化し,1〜3カ月以内に自然吸収される.稀に生後2〜4週で血腫の骨化が始まり,数カ月かけてカルシウムの沈着と吸収が起こるが,自然治癒が期待できるため経過観察でよいとされる7).自然に治癒しないときは将来的な頭蓋骨の変形が懸念されるが,頭蓋骨の成長には影響がなく,時間の経過で頭蓋骨の形状は正常に近くなると言われており4),通常外科治療は要しない.

 今回われわれは,予定帝王切開で生まれた児の頭部腫瘤に対し精査・外科治療を行い,骨化した頭血腫であった症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 通常,頚部内頚動脈(internal carotid artery:ICA)と外頚動脈の位置関係は内頚動脈が外側に位置しているが,稀にICAが内側に位置することがあり,Twisted ICAといわれる7,8).頚動脈内膜切除術(carotid endarterectomy:CEA)に際して問題となることがある.症例を提示し,発生機序や手術時の注意点などについて検討した.

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Ⅰ.はじめに

 くも膜囊胞は全頭蓋内占拠性病変の約1%を占め4),多くは無症候性に経過するがときに増大し神経症状を呈する.小児期に発見されることが多いと言われ,成人,特に高齢者のくも膜囊胞の自然歴や症候化のメカニズム・頻度,手術適応については不明な点が多い.われわれの施設で後期高齢者を含む3例の成人症候性脳実質内くも膜囊胞を経験し,内視鏡的開窓術を施行した.症候性くも膜囊胞は高齢でも低侵襲治療で良好な経過を得られることを示す知見と考え,報告する.

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Ⅰ.経験症例

1.Case 1

 〈患 者〉 66歳 男性

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 73歳 女性

 主 訴 意識障害

連載 臨床研究の知識update

(3)臨床研究法の概要 佐藤 典宏
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Ⅰ.はじめに

 臨床研究法(以下,本法)が平成30年(2018年)4月1日より施行された.本稿作成時は施行後半年が経過しているが,現時点では本法に基づいた臨床研究が実施されている様子は覗えず,多くの関係者が「手探り」「様子見」の状況にある.そもそも本法は,いわゆる「ディオバン問題」などの臨床研究に関する不適正事案を契機に制定されたものである.不祥事の反省から新たなルールを定めることはあるべき姿であるが,本法には残念ながらさまざまな問題点も存在する.しかし,法律として施行されている以上,臨床研究を実施する者はこれを遵守しなければならない.本誌の読者は脳神経外科医であり,大部分が臨床研究を実施する立場であると想定される.そのため本稿は,本法と関連規定の内容について,研究者が知っておくべき点を中心に実際の条文を交えつつ概説し,膨大かつ難解な本法の理解の一助となることを目的とする.

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目次

欧文目次

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 貴島 晴彦
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 この第47巻第4号が平成最後の「脳神経外科」になる.

 まず,巻頭の「扉」で藤津和彦先生のご執筆の「鷹の眼と獅子の心と貴婦人の手」を大変興味深く読ませていただいた.時代の変わり目にふさわしい着眼点で,脳外科手術の視点で,変わりゆくもの,変わるべきもの,変わらないものを非常に柔らかく述べられておられる.平成最後の「脳神経外科」にふさわしい巻頭言である.ぜひご一読いただきたい.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
47巻4号 (2019年4月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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