Neurological Surgery 脳神経外科 46巻7号 (2018年7月)

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 私は,脳神経外科(以下,脳外科)から“脱落”した人間である.“神の手”を持つ脳外科医でもなければ,一流の研究者でもない.日常診療に追われる1人の臨床医に過ぎない.それゆえ,この原稿依頼が来た時,はじめはお断りすることを考えていた.ただ,一方で,脳外科を志した医師のすべてが,難しい手術を数多く行う脳外科医になれるわけではないし,世界に通用する研究者になれるわけでもない.そう考えると,脳外科を選択した若い医師に対して,私のような生き方があることを伝えることも意味がないわけではないと考え,受けることにした.

 はじめに書かせていただく.若い頃,私が描いた私の「Project X」とは,1人でも多くの救急患者を助けるシステム・組織を作り上げることであった.そして,私はこれまで多くの時間をその組織作りに費やしてきた.そんな話である.

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Ⅰ.はじめに

 膠芽腫は予後不良であり,予後の改善につながるエビデンスのある治療法が限られている.エビデンスに基づく治療を行うには,治療法の安全性や効果が検証された臨床試験についての理解が必要である.臨床試験は3段階に分けて新規の治療法や薬剤の安全性,有効性を確認していく.第Ⅰ相試験では,少数の患者を対象として薬物の安全性や薬物動態を確認し,用量や投与法を検討する.第Ⅱ相試験では,対象患者数を増やし,第Ⅰ相試験で確認されたデータをもとに新規の治療法の有効性と安全性を調べる.さらに,第Ⅱ相試験の結果をもとに第Ⅲ相試験では,多数の患者を対象に,現時点でのベストな治療法である標準治療と有望な治療法を比較し,新規の薬剤や手術,機器などの有効性,安全性を検証することにより,新たな治療法が確立される.予後の改善のためには新たな治療法の開発が急がれるが,膠芽腫は希少がんであり,症例数が少ないため臨床試験の迅速化が困難なことが問題で,最近では国際共同試験も行われている.膠芽腫の治療には,手術,放射線治療,化学療法による集学的な治療が必要であり,本稿では各項目ごとに第Ⅲ相試験を中心に解説を行う.

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Ⅰ.はじめに

 中枢神経系原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)は,免疫不全を伴わない状態において中枢神経系組織に限局して発症したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL),と定義される14).PCNSLは全原発性脳腫瘍の4.6%を占め,その頻度は本邦を含む先進国において近年増加傾向にある13).標準治療として,生検による組織像の診断後に大量メトトレキサート(high-dose methotrexate:HD-MTX)を基盤とする化学療法を先行し,続いて全脳照射が施行されているものの,その予後は40〜55カ月と不良である10,13,15).また再発時における標準治療については未だ確立しておらず,現在さまざまな治療が試みられている.当院では,HD-MTX療法後の再発症例に対して,大量シタラビン(HD-AraC:2,000mg),シスプラチン(CDDP:25mg/m2),エトポシド(VP-16:40mg/m2),メチルプレドニゾロン(methylprednisolone:500mg)を用いた化学療法(以下,ESHAP療法)を施行している.今回われわれは,二次化学療法としてのESHAP療法の治療効果について検討を行った.

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Ⅰ.はじめに

 外傷を除けば,くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)のほとんどは脳動脈瘤破裂に起因する.徹底的な出血源の検索は不可欠であるが,近年の画像診断法の進歩にもかかわらず,非外傷性SAHの4〜22%では,初回の画像検査で出血源を特定できない.文献的には,画像検査を繰り返すことで,新たに1〜12.5%に出血源が特定されるというが,最終的にはおよそ10%で出血源が不明(SAH of unknown etiology)のままに終わる13)

 Rinkelら9)は,SAHが中脳周囲に限局するものをperimesencephalic type(PM type)と名付け,破裂動脈瘤が出血源となることはほとんどなく,予後良好で,血管撮影を繰り返す必要はないと記載した.しかし,その一方で,このタイプの出血でもおよそ10%に破裂動脈瘤が潜在し,その見逃しが重大な結果をもたらすとする報告もある1,6)

 日常臨床では,初回の画像検査で出血源を特定できない場合,どのような検査をどのタイミングで,いつまで繰り返すべきか,ということが大きな問題になる1,2,5,6,12).今回われわれは,初回検査で出血源を特定できなかった非外傷性SAHについて,その臨床的特徴と経過,対策を検討した.

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Ⅰ.はじめに

 前庭神経鞘腫は,小脳橋角部に発生する腫瘍の代表格である.小脳橋角部には脳神経が存在し,特に顔面神経は前庭神経と併走しており,腫瘍摘出時に損傷するリスクがある.術後に顔面麻痺が出現すると患者の身体的・社会的・精神的苦痛の原因となるため,術中の顔面神経の温存は重要事項の1つである.しかし術中に解剖学的には温存されていても,術後機能的には麻痺を生じることがあり,その予防のためには術中の神経モニタリングが必要である.顔面神経の随意刺激はしばしば行われているが,摘出操作中の神経機能障害をいち早く察知するためには,持続的に顔面神経をモニタリングすることが望まれる.持続刺激顔面神経モニタリングについてはいくつか報告されているが,いまだ問題点も多い3,5,6).今回われわれは,当院で独自に改良した電極を用いて持続刺激顔面神経モニタリングを行い,前庭神経鞘腫の手術において有用であったので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳血管内治療のアプローチとして,大腿動脈あるいは上腕動脈経由での手技が確立され,今日では椎骨動脈(vertebral artery:VA)の直接穿刺が推奨されることはほとんどないが,それでも治療上,VAを穿刺せざるを得ない症例に遭遇することがある.今回われわれは,破裂右VA動脈瘤を左VA経由で治療する際に,VAの屈曲蛇行によりカテーテルの誘導が困難で,VAの経皮的直接穿刺を行った1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 妊娠に伴い視野狭窄を呈する場合は,下垂体腺腫やリンパ球性下垂体炎などの疾患の存在が示唆される7,12).鞍結節部髄膜腫も,妊娠や月経周期に伴い腫瘍体積が増大し,妊娠中期から後期にかけて視機能障害を生じた症例が報告されている.これまで妊娠中に視機能障害にて発症した鞍結節部髄膜腫は20例報告されており,妊娠中に摘出を行ったものが6例,出産後に手術されたものが7例で,そのうち3例で分娩後に症状の自然軽快が報告されている1,2,4-6,8,9,11,13,20,21).母子の健康と視機能回復の観点から,髄膜腫摘出をいつ行うかが重要であり,その時期は腫瘍の大きさ,症状の発現時期,進行の程度などを総合的に考慮して決めなければならないが,その基準は確立していない.また周産期における髄膜腫の腫瘍体積の変化は女性ホルモンとの関連が推察されているが,直接的な関与は不明である.

 今回われわれは,妊娠後期に視野狭窄を呈した鞍結節部髄膜腫において,分娩後に腫瘍の縮小と症状の改善を認めた稀な1例を経験した.女性ホルモン受容体に着目し,腫瘍の病理組織学的検討とともに病態および治療方針について考察したので報告する.

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Ⅰ.緒  言

 転移性の眼窩内腫瘍は比較的稀であり,米国単施設の30年間1,264例の眼窩内腫瘍において,7%が転移性腫瘍で,うち半数以上が乳がん原発であったと報告されている15).国によりがん腫の頻度に差異があるにもかかわらず,眼窩内転移の原発巣は乳がんが多い.豪州の多施設調査の21年間80例の報告では,原発巣は乳がんが最多(29%.以下,悪性黒色腫20%,前立腺がん13%)18),ドイツの単施設14例の眼窩内転移の報告では,乳がん(8例),肺がん(4例),その他(2例)であり,半数以上が乳がんとなっている13).Raapら13)は既報の症例報告72症例のまとめについても報告しており,やはり乳がんが最多で29%であった.本邦では乳がんの発症数は増加しており,脳転移を治療する機会の多い脳神経外科医が,この稀な眼窩内転移に遭遇することも予想される.今回われわれは,乳がんの両側眼窩内転移の2例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 慢性硬膜下血腫の穿頭血腫除去術後に硬膜下膿瘍を認めることは少ない2,9,13).今回われわれは慢性硬膜下血腫の穿頭血腫除去術後に,Propionibacterium acnesP. acnes)の感染による硬膜下膿瘍の稀な1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 8歳 女児

 既往歴 出血傾向を示唆するエピソードなし

連載 機能的脳神経外科最新の動向

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Ⅰ.はじめに

 経頭蓋集束超音波の概念,つまり超音波を頭に当てる,それを1カ所に集める,そして熱を得る,という概念が最初に報告されたのは,1944年のことである.Lynnらは「Histology of cerebral lesions produced by focused ultrasound」と題した報告の中で,「超音波は吸収されると熱を生む」,「超音波が集まる場所ではさらに高い熱が産生される」,そして「集束超音波は局所に集まり,熱の産生はその局所のみである」という集束超音波の特性を示した11)

 この,脳を局所的に超音波で温熱凝固させるという概念を基に,経頭蓋集束超音波は長年にわたって研究されてきた.Meyersらは,Fryらが開発した“high-intensity focused ultrasonic apparatus”を用いて,第1例目の手術を行った.これが,“Neurosonic surgery”(当時の呼称)の始まりであり,その1例の経験は,その後1959年にJournal of Neurosurgery誌に報告された15).また,本邦においては,1957年に岡らがMeyersらの報告をもとに,凸レンズを用いて超音波を集束させ,選択的局所脳凝固治療を実施したのが初めてであった16)

 さて,医療における超音波は,頭蓋以外の組織では,まず診断目的の用途で普及し,軟部組織のスクリーニング精査だけではなく,心臓の動態検査として発展した.一方,脳神経外科領域ではX線CT,MRIが台頭し,超音波は骨により遮られるため頭蓋内の検査としては発展しなかった.また,集束超音波も頭蓋骨で吸収や偏向が発生し,大きな開頭による骨除去が必要であり,その高い侵襲性のため頭蓋内への応用の実用化は不可能と思われていた.

 しかし,その後半世紀を経て,CTとMRIで頭蓋骨や脳の解剖学的情報と温度情報をリアルタイムに測定することが可能となり,この機構を用いて超音波の集束を制御することができるようになった.また,覚醒下で臨床使用することができるようになり,経頭蓋集束超音波技術の実用化に至った.

 本稿では,CTの骨画像による超音波の集束の制御,およびMRIによる脳の解剖学的位置と脳温モニターを統合した,経頭蓋MRガイド下集束超音波治療(magnetic resonance-guided focused ultrasound surgery:MRgFUS)について紹介する.経頭蓋MRgFUSは,当初は米国,カナダに始まり,韓国,日本,欧州に導入され,主に本態性振戦をはじめとする振戦疾患に対して,その安全性と有効性が報告された.現在われわれは,MRgFUSの局所性ジストニアに対する前向きfeasibility臨床試験(視床腹吻側核),パーキンソン病に対する淡蒼球視床路凝固術(ForelのH2野),てんかんに対する凝固術(hamartomaなど)を開始している.本稿では,経頭蓋MRgFUSによる定位視床凝固術の導入初期経験,各種疾患に対する臨床研究を紹介し,今後の経頭蓋MRgFUSおよび定位機能外科の展望について述べる.

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目次

欧文目次

「読者からの手紙」募集

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 宮本 享
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 本号の扉には,堤 晴彦先生から「私の” Projcet X”」と題して,先生ご自身のキャリアを振り返りながら,新しい領域や組織を作っていくうえでの夢と情熱,そして行動の大切さをご執筆いただいた.初めから何でも準備されていることに慣れきっている若い世代にぜひ読んでもらいたい.

 総説では,沖田典子先生と成田善孝先生に,膠芽腫に対する各種のphase Ⅲ studyを治療法別に手術・放射線・化学療法・TTFのそれぞれに分けて解説していただいた.多種多様な研究が錯綜している本領域をわかりやすくまとめていただいている.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
46巻7号 (2018年7月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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