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Ⅰ.はじめに
1965年にMelzackとWallがゲートコントロール理論17)を紹介し,太い体性感覚神経や脊髄に対する刺激は細い体性感覚神経のゲートを閉じるため,慢性疼痛を緩和させる可能性が示唆された.1967年にShealyら22)は末期がん患者の脊髄後索に直接プラチナ板電極を埋め込み,100Hzの高頻度刺激を行った.つまり硬膜下腔に電極を入れ,脊髄後索を電気刺激して,良好な除痛効果を得たと報告している.この方法は多くの施設で追試され,その除痛効果が確認されたが,種々の合併症が報告され,現在では用いられなくなった.
下地ら23)は同じ頃,硬膜外から脊髄を通電刺激する「脊髄硬膜外通電法」を開発した.疼痛部位に相当する脊髄分節の硬膜外腔において,経皮的に硬膜外ブロック用カテーテル内腔に径150〜230μ程度の鋼線を通し,先端を5mm程度露出させて電極とした.硬膜外電極を陰極とし,陽極を体表に置き,電気刺激を行う.当初は,高頻度および直流通電を用いたが,その後,低頻度(1〜5Hz)でも効果があると報告している24).
1975年にはMedtronic社製の4極白金電極埋め込み型脊髄刺激装置が開発された.これにより長期留置による刺激が可能となり,慢性難治性疼痛患者の社会復帰に有用であったことから普及した.本邦では1992年に保険適用となった(メドトロニックXtrel).
カナダ,ヨーロッパでは,脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)が最も有効なのは狭心痛とされ,有効率はほぼ100%であり,長期成績も良好である.しかし,米国食品医薬品局(FDA)は狭心痛に対するSCSを認めていない.ほぼ同様の有効性が末梢性血行障害においても認められる.次に有効性が見込めるのが,脊椎手術後症候群(failed back surgery syndrome:FBSS)と複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)である.幻肢痛,脊髄損傷後疼痛に対する有効性は乏しい(Table1)3,16).
一方,本邦での保険適用は,「慢性難治性疼痛で,薬物療法,神経ブロック,外科手術に抵抗性を示すケース」となっており,本邦では狭心痛に対して行われることはなく,末梢性血行障害に対しても少数例しか施行されていない19).FBSSが最も一般的な適応であり,欧米では敬遠される中枢性脳卒中後疼痛に対してもトライアルが行われている.中枢性脳卒中後疼痛に対するSCSの有効性は,visual analogue scale(VAS)で30%以上スコアが改善するケースが40%と報告されており,運動・感覚障害が軽度なケースである2).
FBSSとは,適切な脊椎の除圧術がなされたにもかかわらず持続痛を認める場合であり,SCSの有効性は高い16).FBSSに対しては,術者はSCSと除圧術再施行のどちらが適切か再考しなくてはならない.ときには中枢性脳卒中後疼痛とFBSSの鑑別が困難なケースがある.また,パーキンソン病患者は,しばしば腰痛を訴えるが詳しいメカニズムは不詳である.
定位・機能神経外科治療ガイドラインでは,経皮的トライアルが勧められている1).経皮的トライアルで患者が十分に満足,または納得した場合にSCSシステムの植込みを施行する.近年,SCSシステムは進化しており,電池式と充電式が選択できるようになった.充電式が開発されたことで電気容量の心配がなくなり,24時間SCSを継続的に実施できるようになった.また,MRI撮影に対応したSCSシステムも上市されている.刺激パターンとして,BurstDR刺激が2017年に本邦で承認され,今後,超高頻度刺激の認可も行われるだろう.これらの刺激パターンはparesthesiaがないが,除痛効果が得られるものである.4極でスタートしたリードは16〜32極の多極リードも開発され,形状もさまざまなものがある.そのほかに海外で治験中のものとして,後根神経節を選択的に刺激するSCSシステムがあり,心不全治療のSCSシステムも考案されている.
現在,本邦で使用されている脊髄刺激装置は,日本メドトロニック,アボットメディカルジャパン,ボストン・サイエンティフィック ジャパン(本邦での承認順)の3社から上市されている(Table2).各社の製品には特徴があり,次項でそれぞれの最新製品を紹介する.
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