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Ⅰ.はじめに
近年,希少性ゆえに治療や医薬品開発が進まない難病領域において,国際連携による病態把握や医薬品開発の機運が高まっている.その理由の1つに,約8割が単一遺伝子疾患で構成されると言われる希少疾患の病態解明研究により未知の遺伝子機能が明らかになり,その成果がさまざまなcommon diseaseの病態解明と創薬開発に応用できるという道筋が示されたことが挙げられる.日本では,2014(平成26)年5月30日に新たに「難病の患者に対する医療等に関する法律」が成立し,2015(平成27)年1月1日から施行された.さらに,2015(平成27)年4月に発足した国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)は,文部科学省,厚生労働省などがそれぞれのルールの下で実施してきた医療分野の研究開発支援を集約し,基礎から実用化まで一貫した研究開発を推進することを目的としており,難病(難治性疾患),未診断疾患を基幹プロジェクトに位置づけている.難病研究に対する関心は国内外ともに高く,正確な臨床データの収集と情報共有,研究を医薬品,医療機器,再生医療等製品の開発へつなげるための組織構築の重要性が増している.
希少疾患は,治療法,治療薬が開発されずあまり顧みられることがないという意味合いから“orphan disease”とも呼ばれている.わが国では,歴史的経緯により1972(昭和47)年の「難病対策要綱」に基づいた難病の調査研究支援,医療費負担の軽減など,国際的に先進的なシステムをもっていたが,希少疾患という概念自体が導入されたのは1995年頃からである.海外では,米国と欧州の希少疾患研究における連携と研究資金の調達を主な目的として,2012年に国際希少疾患研究コンソーシアム(International Rare Diseases Research Consortium:IRDiRC)が設立された.わが国もAMEDが新たにIRDiRCへの参加を表明し,国を挙げて難病,希少疾患の病態解明と治療法開発を支援する体制ができつつある.
難病,希少疾患は遺伝性代謝疾患や神経変性疾患が多く,一般的な脳神経外科医にとって日常診療で経験する機会は少ないが,脳神経外科領域においても希少疾患,難病,特定の臨床亜型が難治性病態であるものが多数存在する.このうち外科的治療が不能な病態は,脳神経外科以外の診療科から関心をもたれることは少なく,診療,研究の対象の狭間としてあまり顧みられていない.このような疾患,病態に対する治療法を検討することも脳神経外科医の責務と言える.そのためには,最新の難病行政や国際的動向を視野に入れ,脳神経外科領域の希少疾患や難治性病態の克服のための研究,治療法の開発を目指す長期的な計画を立てる必要がある.本稿は,難病,希少疾患に関する理解の一助とするため,定義,日本における難病行政の経緯,国際動向について,主にインターネット上で利用可能な資料を整理して記載を行った.また,脳神経外科診療との関わりの具体例として,希少脳血管疾患であるもやもや病を例に説明を行った.
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