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医学全体における脳神経外科の占める割合は決して大きくはないかもしれないが,本号の原稿を眺めると,脳神経外科の幅の広さ,奥の深さを感じさせられる.脳神経外科治療の要は手術であるが,その手術を安全かつ確実に行うためには,総説や連載で取り上げている術中モニタリングや術前・術中支援が有用である.また,多くの貴重な症例が報告されているが,症例から学ぶことは,時に教科書から学ぶことより実践に役に立つ.本号では,脳神経外科診療と難病行政の問題も取り上げている.希少疾患の病態の解明や治療法の開発のためには,行政の支援は不可欠である.
「扉」では園田順彦教授が,織田信長が49歳で亡くなったことに触れている.論語には,「四十にして惑わず,五十にして天命を知る」とある.社会のリーダーとなる人が50歳前後に多いことは,昔も今もこれからも変わらないと思う.私は,その年齢をはるかに過ぎてしまった.脳神経外科医を目指したことに惑いはなく,天職だとも思っている.しかし,わが身を振り返ってみると,30年以上,脳神経外科医としての研鑽を積んできたが,専門領域ですら脳神経外科医として完成しているとは言い難く,不得意領域も多々あるのが現実である.少年老い易く,学成り難しである.最近,「病院探検隊」という病院の客観的な評価を行っている方々から,私どもの病院では,「患者目線」での診療が行われていないとの厳しい指摘を受けた.患者は,脳神経外科医であれば,脳神経外科のことはすべてわかっていて,適切な治療を行っているものと信じているのではないかと思う.一人として完成された脳神経外科医はいないと思うが,われわれは常に患者の信頼に応えるべく,精進しなければならない.脳という神の領域は,未知の部分が多い.そして,冒頭で述べたように,脳神経外科という学問は,幅が広く,奥が深い.それが脳神経外科の魅力でもある.
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