Neurological Surgery 脳神経外科 43巻7号 (2015年7月)

地域包括ケアの時代 清水 宏明
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 65歳以上の人口は,現在3,000万人を超え,4人に1人となっている.団塊の世代800万人が75歳以上となる2025年には,医療や介護の需要がさらに著増する.ただし,65歳以上人口の絶対数は2042年の3,900万人をピークに減少するため,入院病床や入居型介護施設を増やしすぎるといずれ供給過多になる.そのため,「医療・介護・介護予防・生活支援・住まい」の各サービスを一体的に受けられる支援体制を早く構築し,介護が必要になった高齢者も自宅や地域で暮らせるようにする必要がある,というのが厚生労働省の「地域包括ケアシステム」である.

 世界に類をみない日本の高齢化は,地方・大都市それぞれに異なる問題を提起している.なかでも先頭を行くのが秋田県であり,2012年の高齢化率は30.7%,2040年には43.8%,いずれも第1位である.ただし,東京都や神奈川県でも21%から2040年には33〜35%に上昇するため,いずれにしても全国的な問題であり,秋田での取り組みとその反省が,地域ごとの状況の相違はあれ,全国に影響を与えうる問題と思われる.

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Ⅰ.はじめに

 光線力学的療法(photodynamic therapy:PDT)は,光感受性薬剤へのレーザー光線の照射(光化学反応)で発生した主に活性酸素の作用で治療効果を発揮する療法であり,皮膚疾患から各種の癌,そして感染症に至るまでさまざまな疾患に応用が期待されている,比較的新しい方法である.一般にPDTに用いられる薬剤は,病変への集積性をもつDDS(drug delivery system)的性質とレーザーなどの一定波長の光に反応し特定の物質を発生する性質との,2特性を有する光感受性物質である.この特性により,病変へのダブルターゲッティング(double targeting)—薬剤の病変集積と病変へのレーザー照射—を行う局所療法であり,全身あるいは周辺局所への合併症を低減しつつ治療効果を期待できる低侵襲治療である.PDTは手術・放射線・化学療法という癌3大治療と比較しても,薬剤・レーザーともに単体では正常組織障害性の極めて低い低リスクの治療である.また,視点を変えれば,薬剤と光という物理力を組み合わせた比較的新しい概念である複合治療の1つであり,薬事上も薬剤と医療機器を組み合わせたcombination products(2つまたはそれ以上の規制製品で構成される製品)に分類される.

 2013年,脳神経外科領域において光線力学関係で2方法が薬事承認を受けた.1つは5-aminolevulinic acid(5-ALA,アラベル:ノーベルファーマ,アラグリオ:SBIファーマ)であり,悪性脳腫瘍に対する術中腫瘍組織の可視化(光線力学的診断,photodynamic diagnosis:PDD)14)の効能が認められ,もう1つはtalaporfin sodium(レザフィリン:Meiji Seikaファルマ)と半導体レーザー(パナソニックヘルスケア)によるPDTが悪性脳腫瘍に対して適応拡大となり,世界に先駆け承認された.本稿では,PDTの作用機序,臨床応用について概説した後,悪性脳腫瘍に対するPDTを中心に医師主導治験の役割とその結果,そして今後の展開を述べる.

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Ⅰ.はじめに

 脳神経外科手術において術中の脳動静脈損傷・閉塞は組織還流障害による脳梗塞,術後脳浮腫などの合併症に直結する重要な因子であり,これをいかにして安全にかつ正確に回避するかということは重要な命題である.インドシアニングリーン(indocyanine green:ICG)を用いた蛍光血管撮影(ICG videoangiography:ICG-VA)は術中real timeに血管・血流を評価する方法として用いられるようになり,脳動脈瘤,脳動静脈奇形(cerebral arteriovenous malformation:AVM),バイパス手術などの脳血管手術を中心として有用性が報告されており,その簡便性や安全性・有用性により脳神経外科領域において広く受け入れられている.また,近年はICG-VAで得られた時系列・濃度変化信号解析による輝度変化と血流変化の関係についての報告も散見されており,その有用性はさらに広がることが期待されている.一方で,汎用性の高い方法ではあるが,使用頻度が増えるにつれて,ICG-VAの使用方法が不適切な例や,撮影データの評価が不十分なまま放置される例に遭遇することも多くなった.機能予後のために使用しているICG-VAに関して,routineな使用のみならず,その原理,限界を知ったうえで本法を臨床応用診断機器として使用していくことが重要である.

 本稿ではICG-VAの原理および臨床応用とその留意点,今後の課題について紹介する.

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Ⅰ.はじめに

 ギリアデル®脳内留置用剤7.7mg(一般名:carmustine)は,ニトロソウレア系アルキル化剤であるcarmustineを生体内分解性ポリマー基材に含んだ脳内留置用の徐放性製剤である.組織深達度は数mmであり,脳内留置後約3〜6週間かけて徐放され,臨床用量であれば2〜14日以内に放出される7,17).局所化学療法であるため,全身化学療法に比べ,摘出腔表面に浸潤もしくは残存する腫瘍への直接的作用と全身毒性の回避を利点とする8,20,23).本邦では第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験2)を経て2012年9月に国内での製造販売が承認され,2013年1月に初発および再発悪性神経膠腫に対し保険適応となった.

 初発悪性神経膠腫に対する標準治療である腫瘍摘出後放射線治療・temozolomide(TMZ)併用療法に本剤を追加することで,さらなる生命予後の改善が期待されるが1,8,10,12),一方で再発群に対しては脳浮腫や囊胞形成,創部治癒不全,感染などの有害事象の頻度が有意に増加したとの報告もある16)

 筆者らの施設へは同年4月に導入され,悪性神経膠腫の手術治療に積極的に使用している.ギリアデル®使用開始後の初期経験をまとめ,特にこれまで報告されている有害事象が起こりやすい要因に関して後方視的に解析して検討した.

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Ⅰ.はじめに

 現代の脳神経外科手術において,手術用顕微鏡や神経内視鏡は必要不可欠な光学機器である5).近年,明るく高倍率で高精細な画像が得られ手術記録も可能な体外視鏡(exoscope)が耳鼻咽喉科や婦人科領域での手術・手技で使用され13,14),脳神経外科領域でも使用されはじめている1,2,5,6,12).本稿ではexoscope systemの概要と脳神経外科手術における使用報告例をreviewした.さらにexoscopeとtubular retractor,diffusion tensor imaging tractography,脳神経外科手術用ナビゲーションシステムを併用した脳深部病変へのアプローチについても紹介する.

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Ⅰ.はじめに

 脳底動脈幹穿通枝脳動脈瘤は非常に稀であり,2013年にGrossらがPubMedにて渉猟し得た症例に自験例を加えた12症例についてレビュー3)しているにすぎなかったが,2014年にChalouhiらのflow diverter stentであるPipeline Embolization Device(PED)を用いて治療した1症例1)も報告された.これらの13症例はすべてくも膜下出血にて発症しており,再出血予防目的に7症例は直達手術,3症例は血管内治療,残り3症例は保存的加療が行われている.いずれの症例も良好なoutcomeが得られていた1,3).また,これらの報告では4症例に初回の脳血管撮影にて動脈瘤を認めなかったとされており,繰り返しの脳血管撮影検査の必要性が強調されている.今回,われわれはくも膜下出血で発症した脳底動脈幹穿通枝破裂脳動脈瘤に対し,初回(第0病日)の脳血管撮影検査にて出血源不明であったものが,第10病日の3回目の脳血管撮影検査にて出血部位が同定され,その病変に対し血管内治療を行った症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋骨骨折や頭蓋内血腫を伴わない頭部外傷に静脈洞血栓症を合併するのは極めて稀である7).その臨床症状は非常に多彩で非特異的であり,臨床症状のみからの早期診断は困難である10).今回われわれは,頭蓋骨骨折を伴わない鈍的頭部外傷後に頭蓋内圧亢進症状が増悪し,MR venography(MRV)にて上矢状静脈洞血栓症と診断し得た症例を経験したので,報告する.

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Ⅰ.はじめに

 眼窩内腫瘍性病変は比較的稀な疾患である.その中でも眼窩内静脈瘤の報告は少ない.今回われわれは若年で発症し,経頭蓋到達法で治療を行ったが静脈瘤を摘出することなく眼症状が改善した眼窩内静脈瘤の症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 2007年に改訂された中枢神経系腫瘍のWHO分類では,頭蓋内原発の孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)はmesenchymal, non-meningothelial tumoursに属し,その記述は発生部位,病理組織学的特徴などに限られる.Hemangiopericytoma(HPC)に関しては,硬膜に付着し再発や中枢神経系以外への転移がある腫瘍として,別項を設け詳述されている8)

 一方,2002年の骨軟部腫瘍のWHO分類では,fibroblastic/myofibroblastic tumoursの中のintermediate(rarely metastasizing)の項にsolitary fibrous tumour and haemangiopericytomaとして記載され,SFTとHPCの境界が不明瞭となり,HPCはSFTの亜系とみなされた6).2013年の骨軟部腫瘍の新WHO分類では,HPCはSFTの項に同義語として挙げられているのみで,目次から消えている7)

 2013年,Nature Genetics誌にSFT(HPCを含む)の遺伝子変異に関する2編の論文が掲載された4,9).彼らは,SFTの全エキソームの塩基配列を解読して,nerve growth factor-inducible A binding protein 2(NAB2)とsignal transducers and activators of transcription 6(STAT6)の遺伝子融合が,この腫瘍の発生に関与していることを突き止めたのである.正常ではこれらの遺伝子は12番染色体長腕12q13で,それぞれの3'末端を一部共有し反対向きに存在し,NAB2は転写抑制因子,STAT6はJanus kinase(JAK)-STAT pathwayの転写因子として,炎症・血管形成・線維芽細胞活性化・コラーゲン産生などの調節に関与している.異常な融合遺伝子はSFTにおけるドライバー変異となると想定されている.

 今回われわれは,Robinsonら9)が用いたのと同様のNAB2-STAT6融合検出プライマーセットを使用し,頭蓋内SFTの2例に対してNAB2-STAT6遺伝子融合検索を行った.その結果を報告するとともに,組織を保有していた過去のHPC 2例に対しても同様の検索を行ったので,あわせて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 遅発性脳血管攣縮はくも膜下出血術後第4〜14病日に発生する脳主幹動脈の可逆的狭窄で,脳血管撮影上の血管攣縮の頻度は50〜70%,症候性脳血管攣縮は25〜30%に認められ,初回発作,再出血とならび患者のmorbidity,mortalityに大きな影響を及ぼす10).本邦では脳血管攣縮の予防として,主に塩酸ファスジルやオザグレルナトリウムの投与が行われてきた.ほかにもさまざまな脳血管攣縮に対する予防法が行われ,近年ではシロスタゾールの有効性も報告されている6).また頭部外傷後に稀に数日から数カ月してから突発的に脳内血腫を認める遅発性外傷性脳内血腫(delayed traumatic intracerebral hematoma:DTICH)の報告も散見されている.今回われわれは,左内頚動脈破裂動脈瘤,右急性硬膜外血腫術後の脳血管攣縮予防の抗血小板療法中に,軽微な側頭葉先端部脳挫傷を契機に第11病日にDTICHを認めた1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

連載 脳卒中専門医に必要な基本的知識

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Ⅰ.はじめに

 リハビリテーションはどんな疾患かにかかわらず,適切な障害の評価,ゴールに基づくリハビリテーション処方,リハビリテーション処方に基づくリハビリテーション治療という流れが基本である.したがって,リハビリテーションの実施に際しては,適切な障害の評価が必要であることは言うまでもない.脳卒中リハビリテーションにおいては,まず脳卒中の病態,機能障害,能力低下[活動制限,日常生活動作(ADL)障害],社会的不利(参加制約)を評価する必要がある.

 本稿では脳卒中専門医が知っておくべき,評価法と脳卒中リハビリテーションの概略について解説する.

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 このたび,2015年4月15〜18日に韓国のJeju島で開催された14th Asian Australasian Congress of Neurological Surgeons/In conjunction with the 33rd KNS Annual Spring Meeting & the 13th Asian-Oceanian International Congress on Skull Base Surgery & KSBS CME CourseおよびWorld Academy of Neurological Surgery(WANS)Interim Meeting 2015に参加しました.

 本学会は会長のKyu-Sung Lee先生(韓国Yonsei大学脳神経外科主任教授)の陣頭指揮のもと,実に47カ国,1,600名余りの参加者により,盛況に開催されました.表1に示すようにその内訳は,アジアはもとより,中近東,ヨーロッパ,アフリカ,北米,南米と全世界に及び,各国を代表する脳神経外科医や若手医師が参加され,横の懇親も十分に交わされたものと思います.日本からも多くの医師が招待を受け,脳神経外科学会理事長の嘉山孝正先生,次期の脳神経外科学会学術総会会長の寳金清博常務理事をはじめとして,60名近くのそうそうたるメンバーが参会しました.

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はじめに

 専門医としての技能を高めるために長期の海外研修に参加することは,それまでの日常に大きな変化をもたらすことであり,タイミングなどの要因もあるため,簡単に決断できることではありません.日本は,海外の多くの若手脳神経外科医が留学を希望する国の1つです.日本の脳神経外科は,学術的な見識の高さや手術テクニック,臨床,研究の先進性,手術器具の開発までも行う高い技術力をもっていることでよく知られています.また,これらの卓越性だけでなく,外国人医師は日本人の人柄も考慮して来日を決断しています.このような理由から,私は,非常に高名な脳神経外科医である加藤庸子教授(藤田保健衛生大学)の下で,1年間脳血管および頭蓋底外科を学ぶための願書を送ることにためらいはありませんでした.留学の主な目的は,複雑な脳動脈瘤や動静脈奇形に対する手術手技を学ぶことでした.

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欧文目次

お知らせ

「読者からの手紙」募集

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 宮本 享
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 本号も力のこもった多くの原稿をいただいた.村垣善浩先生からは光線力学的療法の作用機序や臨床,今後の展開について解説をいただいた.嵯峨健広先生からは,ICG videoangiographyの原理と脳神経外科手術についての論文をいただいた.既に本邦で汎用されているICGではあるが,現状の課題を克服することにより,定量的評価法となる日が待たれる.このように総説も,最近の編集方針に基づいて,読者にとって有益な最新の診断治療に関する充実した論文が掲載されている.ギリアデル®留置後の有害事象の検討を行った吉田論文や高精細体外視鏡とナビゲーションシステムを用いた手術法についてのテクニカル・ノートである長谷論文も興味深い内容である.

 「扉」では,清水宏明先生が地域包括ケアや在宅医療を取り巻く問題について,大切な問題提起をされている.脳卒中の地域連携が声高に叫ばれるようになり久しい.病院を層別化し,急性期から回復期,そして維持期と,医療資源を効率的に利用するシームレスな地域連携により,たしかに脳卒中医療は改善したと思われる.しかし,それだけでよかったのだろうか.厚労省は地域連携に続く政策として在宅医療の推進を強く打ち出すようになった.これは清水先生ご指摘のように「経済的な必要性を前面に」立てたものである.しかし,この政策には皆が気づいていない,あるいは気づかないふりをしている暗点がある.日本は,高福祉高負担なのか,中福祉中負担なのか,あるいは低福祉低負担なのか,という社会モデルについての国民的コンセンサスがないままに,経済効率の議論のみで少子高齢社会に突入している.当然のことながら在宅医療を支える「介護の担い手世代」の人口は明らかに減少している.在宅介護の機会が増えることにより,「介護の担い手世代」が失う就職機会は経済損失につながる.また,核家族化の傾向も進んでいる.厚労省が政策説明で示すポンチ絵には,在宅医療の将来展望を見えなくするこれらの因子については描かれていない.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
43巻7号 (2015年7月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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