Neurological Surgery 脳神経外科 43巻6号 (2015年6月)

夢を求めて 森田 明夫
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 「皆さんの夢はなんですか?」

 最近,講演や学生の講義で夢について語ることがある.

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Ⅰ.はじめに

 近年,脳神経外科領域に限らず,あらゆる外科手術においてless invasive surgeryが要求される.神経内視鏡分野においては,1980年代頃から光学機器の発展に伴い,内視鏡を用いた脳神経外科手術が進展してきた.当初は水頭症に対する治療に始まり,今では脳内出血,脳腫瘍など,さまざまな疾患に対して用いられるようになっている.

 本稿のテーマである脳内出血に対する外科的治療は開頭手術,定位手術,脳室ドレナージ術が行われてきたが,今日では開頭手術と定位手術の長所をもった神経内視鏡手術がこれに加わる構図となっている.脳内出血に対する内視鏡手術は1985年にAuerらがその有用性について報告し5),1989年にその有効性をrandomized control trial(RCT)により報告した6).わが国では,2000年にNishiharaら36,37)が専用シースを用いた内視鏡下血腫除去術を考案し,その後止血操作とイリゲーション操作が安全かつ容易に行えるようにdry field method37)やinflation-deflation method33)が報告された.また,内視鏡下血腫除去の手術成績についても数多く報告されており,手術手技においては施設間で若干の違いはあるものの,近年では基本的な手技はほぼ確立しているものと考えられる1,16,36,38,57,58,62)

 さらに内視鏡手術の利点として以下のものが考えられる.これまで脳内血腫の脳への二次的ダメージ(血腫周囲の浮腫)については数多く報告されているが3,4,12,32,44,54,69),内視鏡手術は開頭手術と比較し,低侵襲に血腫除去を行え,術後管理も容易となることで血腫の二次的ダメージを軽減し,かつ急性期リハビリテーションへスムーズに移行できる.ゆえに内視鏡手術において機能予後の改善を期待するのは妥当と思われる.

 また以前より同じ低侵襲手術である定位手術による血腫除去術の有効性は報告されているが25,26),問題点として,盲目的で止血操作が困難であることが考えられるが,同じ穿頭術で行える内視鏡手術は直視下に止血操作が可能で,かつ十分な血腫除去率が得られる.ゆえにより安全で効率的な手術と考えられる.

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Ⅰ.はじめに

 慢性疼痛は,急性疼痛の生体防御に果たす役割を越え1〜3カ月以上持続する痛みであり,発生機序より次の3つに分類される.①痛覚の受容器が刺激されて発生する侵害受容性疼痛(nociceptive pain),②知覚求心路神経が障害されたことで発生する神経障害性疼痛(neuropathic pain),③心因性に発生する心因性疼痛(psychogenic pain)である.慢性疼痛は,これらの病態が重複することが多く,特に神経障害性疼痛は,薬物および外科的治療が奏功せず治療に難渋する.

 神経障害性疼痛は,2008年,国際疼痛学会(IASP)により「体性感覚系に対する損傷や疾患によって直接引き起こされる痛み」と定義された27).神経の損傷部位によって末梢性と中枢性に分類される.末梢性神経障害性疼痛は,帯状疱疹後神経痛,糖尿病性神経障害に伴う痛み,腕神経叢引き抜き損傷後痛,幻肢痛などが挙げられる.中枢性神経障害性疼痛は,中枢性脳卒中後疼痛(central post stroke pain:CPSP),脊髄損傷後疼痛(spinal cord injury pain:SCI痛),多発性硬化症を原因とする疼痛などが代表的である.脳神経外科医は,中枢神経系疾患の治療に携わることが多いため,必然的に中枢性神経障害性疼痛に関わることが多い.

 脳卒中や脊髄損傷のように中枢神経系の障害により,運動麻痺や知覚異常などの後遺症のある患者に疼痛が加わると,quality of lifeはさらに低下する.そのため中枢性神経障害性疼痛患者においては,複合的要因を考慮した包括的診療のもと,薬物や外科治療,理学療法や心理療法を併用し集学的治療をすることが望ましい.脳神経外科医は,その中心となって積極的に疼痛治療に取り組むことが期待される.今回,脳神経外科医が知っておきたい中枢性神経障害性疼痛に対する最新の薬剤治療および外科的治療に関して報告する.

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Ⅰ.はじめに

 内頚動脈分岐部動脈瘤(internal carotid artery bifurcation aneurysm:ICB-AN)は周囲に多数の穿通枝が存在し,それらを障害することなく完全な頚部クリッピング術を行うことは容易ではない.また,内頚動脈分岐部は動脈瘤好発部位の1つではあるが,その発生頻度は2〜10%と多く経験される部位ではなく7,11,14,22),その直達手術における穿通枝障害(perforating artery injury:PAI)について検討した報告は少ない.われわれは,当院で経験したICB-AN直達手術例における穿通枝障害について後方視的に検討を行ったので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 未破裂脳動脈瘤の自然歴・破裂率に関する大規模臨床試験は,International Study of Unruptured Intracranial Aneurysms(ISUIA)によって初めて1998年に報告され2),わが国においてもsmall unruptured aneurysm verification study, Japan(SUAVe, 2010)や日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査(UCAS Japan, 2012)が相次いで報告された8,9).それらによると,大きさの大きいもの,くも膜下出血の既往,部位としては前交通動脈(anterior communicating artery:Acom),内頚動脈後交通動脈分岐部(internal carotid-posterior communicating artery:ICPC),椎骨-脳底動脈(vertebro-basilar artery:VABA),不規則な瘤の形状,多発性などが破裂しやすい因子として報告された.また,SUAVe studyでは観察期間の短い時期に多くのイベントが起こっていると報告している14).今回われわれは,当施設で経過観察中に破裂した未破裂脳動脈瘤の臨床的特徴を明らかにするために,破裂危険因子および観察期間に着目しretrospectiveに検討したので,文献的考察を交えて報告する.

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●頭痛診療をスキルアップしたい非専門医にも役立つ

 日本頭痛学会「慢性頭痛の診療ガイドライン 市民版」作成小委員会(委員長:立岡良久先生)編集による『慢性頭痛の診療ガイドライン 市民版』が医学書院より上梓された.これは同学会と日本神経学会が共同でまとめた,頭痛診療医向けの『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』を患者向けに要約・編集したもので,本来の出版目的は患者への啓発用にということであろう.この目的には大変有用であり,患者が個人で読み,理解するには役立つであろうし,さらに診察室内での説明用,待合室に備えつけとしても使える本である.しかし,あらためて読ませていただくと,患者のみならず,頭痛診療を見直し,スキルアップを考えている非専門医にも役立つ内容にもなっており,この点の活用も十分重要と思われ,患者・医師両者に向けてご推薦したいと思い筆を執った.

 本書の特徴は第1に記述が簡潔で簡単明瞭である.テーマに対する答えが短く,時間がない時も一瞥するだけで答えが得られる.第2にはサイドメモが充実している.ここで頭痛のバリエーションやさらなる情報の入手先がわかる.第3にあくまでも質問から出発している構成になっていることである.医師であれば,すぐに読了できる量と内容である.第4に『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』以後に発表された,最新の頭痛分類(国際頭痛分類 第3版beta版)に準拠していることである.

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●小児(救急)診療の楽しみが倍増する1冊

 長い間,小児救急医療に携わってきたが,その多くは軽症疾患であり,重篤な疾患は稀であることは間違いない.しかし,なぜか,慢心な気持ちが湧けば湧くほど,重篤な疾患に遭遇してしまう皮肉な結果を嫌というほど思い知らされてきた.そこにはピットホールに陥りやすいわれわれ医療側の診療姿勢が見え隠れしているのだと思っている.いかにすべての患児家族に不安をもたらすことなく,的確な診断治療に直結するスキルを自分自身が養い,後輩たちに継承するかは小児救急医(臨床医)の永遠の課題と常々考えてきた.

 本書を読み,この自らの問いへ答えてくれる本に出合ったという想いに溢れ,もっともっと救急現場に立ちたいという気持ちになった.楽しみながら仕事をするという本質的な部分を感じさせる本なのかもしれないと感じ,嬉しくなった.

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Ⅰ.はじめに

 浸透圧性脱髄症は比較的稀な疾患で,急速に神経髄鞘の脱髄を来し,橋や中枢神経系の他の部位の障害を来す.1960年代にアルコール中毒者や低栄養状態の患者で報告されるようになり,後に浸透圧性脱髄症と低ナトリウム血症の急速な補正との関連性が報告されるようになった1,2).臨床上は稀であるが,低ナトリウム血症の急速な補正はcentral pontine myelinolysis(CPM)やextrapontine myelinolysis(EPM)を来す可能性がある.浸透圧性脱髄症が起こった場合は致死的となることもあり,多くは不可逆性で確定した治療法はない.したがって浸透圧性脱髄症を引き起こさないようにすることが重要である.一般的には血清ナトリウム濃度の上昇が,最初の数時間で1〜2mmol/liter(mmol/L)/時未満,最初の24時間で8mmol/L/時未満となるように推奨されている4)

 近年はreversible posterior leukoencephalopathy syndrome(RPLS)やreversible posterior encephalopathy syndrome(RPES)と呼ばれる加療により臨床症状,画像所見ともに可逆性変化を辿るとされる疾患概念も報告されている5,6)

 われわれは高血糖高浸透圧症候群の治療過程で急激な血清ナトリウムの上昇を来し,両側小脳病変,両側淡蒼球病変を認めたが,経時的変化で両側小脳病変の消失と両側淡蒼球病変の残存を認め,EPMの経過が疑われた1例を経験したため,magnetic reosnance imaging(MRI)での経時的変化と考察とともに報告する.

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Ⅰ.はじめに

 MRIの普及によってjuxta-facet cystの報告が増加している.Juxta-facet cystは椎間関節から発生する囊腫性病変で,その形成機序については関節の変性から由来する慢性的な機械的ストレスが関与していると考えられている6).一方,conjoined nerve rootsは神経根奇形であり,神経根奇形を有する患者は有意に周囲の骨奇形を合併し得ると報告されている9).今回,われわれはconjoined nerve rootsにjuxta-facet cystを合併した1症例を経験したので,juxta-facet cystの発生とconjoined nerve rootsとの関係性について文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 腰椎synovial cystは,椎間関節や腰椎分離部から生じ,腰痛,下肢痛などの原因となることがある1,4,8).高齢者では,脊椎圧迫骨折を高頻度に生じるが,骨粗鬆症による圧迫骨折と癌転移による圧迫骨折との鑑別が重要である.今回,L5椎体に高度なfluorodeoxyglucose(FDG)集積を認め,転移性脊椎腫瘍を疑ったが,臨床経過,病理学的検査から無症候性腰椎圧迫骨折を合併した腰椎分離部synovial cystと診断した症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.経験症例

1.症例1

 55歳,女性.顔面神経麻痺の精査のために施行されたMRIでトルコ鞍から鞍上部に進展する腫瘍を認めた.視野検査では両耳側半盲があり,内分泌検査では成長ホルモンが障害されていた.MRIではT1強調画像で等信号,T2強調画像で高信号.ガドリニウムで均一に造影される径45mmの腫瘍を認めた(Fig.1A,B).腫瘍は視交叉,左海綿静脈洞に浸潤し,後方は中脳脚間窩にはまり込むように存在していた.脳血管撮影で明らかな異常は認めなかった.非機能性下垂体腺腫の診断のもと,二期的手術を計画した.

連載 脳卒中専門医に必要な基本的知識

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Ⅰ.はじめに

 もやもや病は本邦で初めて報告され,1969年にSuzukiらによりmoyamoya diseaseと命名された原因不明の疾患である41).両側内頚動脈終末部,前および中大脳動脈近位部の進行性狭窄・閉塞と,その付近の異常血管網の発達といった脳血管像上の特徴で定義される14,27,41).本疾患は日本人をはじめとする東洋人に多くみられるが,本邦の最新の疫学調査においても日本国内の患者数は約7,700人,発生率は人口10万人あたり0.54人と推定されている稀な疾患である28).男女比は約1:1.8と女性に多いことが知られており,発症の年齢分布は10歳以下を中心とする若年型と30〜40歳を中心とする成人型の二峰性を示す28).幼小児期ならびに若年発症の一過性脳虚血発作,脳梗塞,そして脳出血の原因として重要な疾患である.

 虚血発症例に対しては頭蓋外・頭蓋内血行再建術(EC-ICバイパス)が有効で,脳血流の改善による虚血発作の抑制,脳梗塞への進行の予防が期待できる1,3,16,20,25,34,40).出血発症例における再出血も重要な予後増悪因子として知られているが,血行再建術の再出血予防効果については多施設間共同研究(Japan Adult Moyamoya trial:JAM trial)による検証が行われ,EC-ICバイパスの再出血予防効果も示唆された31).本稿ではもやもや病の基礎病態,手術適応そして手術手技と周術期管理について概説する.

報告記

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 2014年9月27〜30日に米国カリフォルニア州ハンティントンビーチで第16回International Brain Edema Symposium(Brain Edema 2014)が,大会会長John H. Zhang先生(Loma Linda大学)のもと開催されました.同学会に参加いたしましたので,その全容をご報告いたします.

 International Brain Edema Symposiumは,1965年に第1回がウィーンで開催され,3年に1度開催されてきた40年以上の歴史ある学会です.わが国でもこれまで,第6回を稲葉穣先生(元東京医科歯科大学),第9回を伊藤梅夫先生(元武蔵野赤十字病院),第12回を黒岩俊彦先生(なめがた地域総合病院),前回の第15回大会,Brain Edema 2011を片山容一先生(日本大学)が開催しました.また,片山容一先生は,第15回大会の後,学会理事長に就任しています.本学会は,「世界的に脳浮腫の病態に関する研究を発表し討論する機会を提供し,この分野の発展を促進する」を目的として,これまでに基礎的および臨床的研究の重要な知見を医学の世界に発信しています.毎回発表の成果は,SpringerによりActa Neurochirurgicaに学会特集号として出版・掲載されています.

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 International Stroke Conference(ISC)は例年2月開催のため,米国でも温暖な地を選んで行われている.筆者は2013年ホノルル,2014年サンディエゴと参加してきた.雪に閉ざされた札幌を離れて,暖かい異国の地に出かけるのは,それだけで嬉しいものである.今年のナッシュビルも同じようなつもりでいたが,現地は寒波が来ている影響で,0℃前後の気温で雪がちらついていた.期待が見事にはずれ,がっかりな天候であった.ナッシュビルはテネシー州の州都で,人口は60万と中規模の都市である.カントリーミュージックの中心地として知られており,ダウンタウンには音楽やカントリーファッションに関連する店が立ち並んでいる(写真1).NHLのアイスホッケー試合会場周辺を除くと,寒々とした天候のせいもあって人通りも少なく,街は少々さびしい印象だった.ということで,今年は学会に集中するには非常によい環境であった.

 学会に関しては,脳卒中に関する新しい話題や切り口の発表が多く,例年通り見所の多い学会であった.会期は2日半とやや短めであるが,演題は1,500題あり,基礎,臨床を広く網羅する内容となっている.今年のISC2015の一番のトピックスは,何といっても血管内血栓除去治療の臨床研究の報告であろう.

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欧文目次

「読者からの手紙」募集

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 村山 雄一
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 今年4月からいわゆる日本版NIH,日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)が発足しました.アベノミクスの「3本の矢」の3番手,成長戦略の中核の一つとして注目されているのが医療改革です.産業としての医療の活性化を促すため,医療機器の審査期間の大幅短縮や大学の研究者の持つ技術を後押しする事業化支援の推進など,その具体的な形がより見えてきました.こうした制度の改革は革新的新規医療を生み出す土壌となりますが,その核となるのはわれわれ医療従事者の斬新なアイデアであり,そのアイデアを実現するための継続性のある情熱が不可欠です.

 本誌6月号では,森田明夫教授が「夢を求めて」と題した扉で,夢を持ち,それを実現するための情熱の重要性とMentorとの出会いの大切さを熱く語られています.森田教授の夢を実現するための不屈の精神を感じ取れる一編です.横須賀公彦先生らの総説,「神経内視鏡下血腫除去術—現状とこれからの展望—」では,手術適応や手術手技についてわかりやすく解説されているのみならず,本邦で開発された透明シースの有用性についても言及されています.また種井隆文先生らの「中枢性神経障害性疼痛に対する薬物治療と外科治療—脊髄刺激療法の現状と課題—」と題した総説では,これまで内科的治療が主体だったこの分野に脊髄刺激療法(SCS)が導入されたことによる新たな展開と可能性を示しています.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
43巻6号 (2015年6月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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