Neurological Surgery 脳神経外科 43巻4号 (2015年4月)

意識改革 上羽 哲也
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 高知にやってきて早いもので2年になろうとしています.着任した当初は新しい環境と教授という職責に戸惑うことも多かったのですが,青い空に碧い海,そして太陽の温もりに恵まれた高知が,ある日,若い頃留学していたカリフォルニアのように思え,なじみはじめました.それ以来,自分の中で物の見方や考え方を切り替えることができるようになり,少し気が楽になりました.

 みなさん,パラダイムという言葉をご存知でしょうか? 私は,最近になりこの聞き慣れない言葉をよく耳にするようになりました.マネージメントをする立場になり,私の中で意識が変化してきたため敏感になっているのだと思いますが,パラダイムという言葉を辞書で調べると“ある時代や分野において支配的規範となる「物の見方や捉え方」のこと”と記載されています.さらに,狭義には科学分野の言葉で,このような規範的考え方は,時代の変遷につれて革命的・非連続的な変化を起こすことがあり(=天動説から地動説への変化など),この変化をパラダイムシフトと呼ぶと記載されています.シフト前後の考え方に対して,優劣などの価値判断を行わない概念であることも重要です.となると,私が高知のことを,日本のカリフォルニアのように思えるようになったのも,私の中の小さなパラダイムシフトだったのだと思います.教授職に着任し,どのようにマネージメントしていくかも,この小さなパラダイムシフトをした私の意識から導き出せばよい訳ですから,少し気が楽になったのも合点がいきます.

総説

てんかんと高周波律動 前原 健寿
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Ⅰ.はじめに

 近年,高速サンプリングが可能なデジタル脳波計が出現したことで,80〜500Hzの高周波律動(high-frequency oscillation:HFO)の分析が可能になった.HFOとは,あることを集中して考える時(生理的HFO)やてんかんの発作(病的HFO)などの際にいくつかの神経細胞が集団で同期して活動(クラスター)するために現れるかなり大きな律動波を記録した脳波である.このうち病的HFOは新たなてんかんバイオマーカーとして注目を集めていて,焦点診断に従来から用いられていたスパイクよりもてんかん原性領域の同定に有用であることが示唆されている17).本稿では,HFOについて概説し,てんかん治療における病的HFO解析の有用性について解説したい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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Ⅰ.はじめに

 下垂体腺腫に対する蝶形骨洞手術への内視鏡導入以来7,8,24),トルコ鞍周辺頭蓋底の内視鏡的解剖知見の集積や経鼻内視鏡手術に特化した器具の開発などとともに内視鏡による広角視野および斜視機能を活用した拡大蝶形骨洞手術が行われるようになってきた2,16).一口に拡大蝶形骨洞手術と言っても,前方は前頭蓋底から尾側は斜台部病変,さらに側面は海綿静脈洞病変などを対象とする手術アプローチを含むが,本稿では蝶形骨平面から鞍結節経由で傍鞍部腫瘍に到達する手術手技に焦点を絞り,その手術戦略・手技について傍鞍部周辺の解剖所見を中心に解説する.

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Ⅰ.緒  言

 腓骨神経障害は,下垂足を伴い,腓骨神経領域のしびれや感覚障害を呈するものとして知られているが,運動麻痺が軽度であっても,知覚障害を主として発症するものもある7,15,18).しかしその臨床像に関する報告は少なく,本邦で一般的に治療されているとは言いがたい.一方,間欠性跛行は腰部脊柱管狭窄症にみられる特徴的症候の1つとして知られているが,ときに腰椎病変が明らかでないものや,外科治療で腰椎病変を治療したにもかかわらず,間欠性跛行が改善しないものも経験する11,13-16,24,25,30,31).今回われわれは,当科で治療した腓骨神経障害の臨床像に着目し,特に間欠性跛行との関連について検討したため,報告する.

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Ⅰ.はじめに

 水頭症に対する脳室腹腔(VP)あるいは腰椎腹腔(LP)シャント手術はほぼ確立された術式であり,皮下にシャントチューブを通す手技および器械に関する報告は少ない1,2).われわれが使用しているシャントパッサーは,円筒状のsheathに,ハンドルの付いた円形断面のstyletを組み合わせたものである.Sheathを体表の形状に合わせて湾曲させ,ハンドルを押して皮下を進める.このパッサーはsheathとハンドルが固定されておらず,その先のstyletは柔軟に曲がるため,意図した向きと異なる方向に回転しがちである(Fig.1A-D).この問題を解決するためには,Fig.1Eのように,sheathとハンドルの基部の形状を改良して回転を防止する方法が考えられる.しかしそのためには,メーカーでの設計や工程の変更が必要になり,応分の労力と資金を要すると思われる.そこで,既存のパッサーに加工を加えることなくこの問題を解決する器具を考案した.14例のシャント手術に使用し,有効であったので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 フラッシュ刺激視覚誘発電位(visual evoked potential:VEP)は,網膜に対する光刺激により大脳皮質視覚野に生じる電位を記録する神経生理検査の1つである.被験者が光刺激画面を意図的に注視する必要がないため,検査への協力が得られない小児例や意識障害患者に対しても施行可能であり4,7,12)1970年代から臨床応用が進められてきたが,安定した電位の記録が困難であることが課題とされてきた21).近年,これらの課題に対して光刺激装置の改良や網膜電図の併用14),完全静脈麻酔の導入6,15,18)が試みられることにより,視覚路近傍の手術の際の術中モニタリングとしてその有用性が再び注目されている3,16)

 頭蓋咽頭腫は小児と成人に発生のピークのある良性腫瘍である.腫瘍による視交叉圧迫のために視力視野障害を呈することが多く,頭蓋咽頭腫の手術において視機能の温存や改善は主目的の1つである.手術中に視機能のモニタリングを正確に行うことができれば,手術操作による視覚路の障害が回避可能となるため,術中VEPモニタリングは視機能温存に有用であると期待される.一方で,既に視機能障害を呈している場合,術中モニタリングでその改善がとらえられるかどうかは議論があり,決着をみていない3,11)

 今回われわれは,トルコ鞍部頭蓋咽頭腫患者に対して経蝶形骨洞的腫瘍摘出術中にVEPモニタリングを行い,振幅増大と術後臨床症状の改善を認めた症例を経験した.大型のトルコ鞍部腫瘍患者に対して,視機能評価におけるVEPの有用性について文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery:PICA)起始部を含んだ破裂椎骨動脈解離(PICA involved ruptured vertebral artery dissection:Pi-rVAD)の治療法には直達手術と血管内治療があり,その中でもいくつものバリエーションが存在する.また最近ではステントを用いた血管内治療の報告がなされている.今回われわれは,発達したPICA起始部を含んだ破裂VADに対して,初回治療でPICA分岐後のより不整に拡張し,破裂部と考えられた椎骨動脈(vertebral artery:VA)遠位部に対してコイルによるinternal trapping(IT)を行い,破裂急性期を脱した後に十分な抗血栓療法下にPICAから近位VAにかけてEnterprise vascular reconstruction device(Enterprise VRD;Codman Neuroendovascular, Johnson & Johnson, Miami, FL, USA)を用いて近位VA拡張部を塞栓し,PICAを温存できた症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 特に癌の既往を有する症例において,多発性で散在性の亜急性期脳梗塞は癌性髄膜炎としばしば鑑別が困難なことがある.その理由の1つとして,造影magnetic resonance imaging(MRI)ではともに高信号を示し,急性期の脳梗塞で有用な拡散強調画像(diffusion-weighted image:DWI)でも亜急性期に入るとびまん性に広がる高信号域として描出され,癌性髄膜炎と類似した所見が認められるからである.また,画像上判断できないような虚血状態を代謝率から調べるmagnetic resonance spectroscopy(MRS)も病変が微小な場合は適用が困難である4).今回,肺癌の脳転移に対する術後の長期経過観察中に緩徐進行性の麻痺が出現し,脳梗塞と癌性髄膜炎の鑑別が問題となった1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 放射線治療の遅発性合併症の1つとして放射線誘発性血管障害があるが,悪性脳腫瘍症例では臨床的に問題とされることは少ない.2000年から2012年までの期間に当院で術後局所放射線治療を行った悪性神経膠腫全175例中2例において,放射線治療に起因すると思われる主幹動脈閉塞・狭窄とそれに伴う脳梗塞を認めた.成人例において同病態は比較的稀で臨床的にはこれまで問題視されていないが,悪性神経膠腫に対する治療の進歩に伴い長期生存例も増加傾向にある中,今後罹患頻度が増加する可能性を予見し,文献的考察を踏まえて報告することとした.

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Ⅰ.はじめに

 神経症状を伴わない急性硬膜外血腫に対しては保存的治療が選択される場合が多いが,血腫が吸収され消失するまでは数週間単位での期間を要する.今回われわれは骨折部を介して血腫が頭蓋外へ移動し,早期に消失したと考えられた稀な急性硬膜外血腫の乳児例を経験したので,その機序と小児期の急性硬膜外血腫の治療方針に関し文献的考察を交えて報告する.

連載 脳卒中専門医に必要な基本的知識

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Ⅰ.はじめに

 画像診断装置の普及や,わが国独自の診療形態である脳ドックの発達などから,無症候性脳血管病変が発見されることが多くなってきた.無症候性であるがゆえにデータの収集が難しく,未だにエビデンスが十分であるとはいえないが,最近は報告が蓄積されてきた.ここでは無症候性脳梗塞,大脳白質病変,無症候性脳出血,無症候性頭蓋内および頭蓋外主幹動脈狭窄/閉塞,無症候性脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM),未破裂脳動脈瘤に分けて,既存のガイドラインよりも後に報告された事項を加味して概説する.

海外留学記

Massachusetts General Hospital (MGH) 岡 史朗
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 私は現在,山口大学医学部脳神経外科,鈴木倫保教授のご高配で,米国マサチューセッツ州ボストン市にあるMassachusetts General Hopital(MGH)のNeurovascular Research Laboratoryにresearch fellowとして留学しております.滞在約1年が経過した現状やこれまでの経験などをご報告させていただきます.

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 2014年10月4日から3日間にわたり,第8回アジアてんかん外科学会(8th Asian Epilepsy Surgery Congress)が東京で開催されました.会長は近畿大学脳神経外科教授の加藤天美先生です.日本,韓国,中国,台湾,インドネシア,ベトナム,インド,ヨルダンからの脳神経外科医や神経内科医が参加しましたが,会場の都市センターホテル(永田町)はアクセスを含め,大変好評でした.

 この会は,韓国,日本,中国の脳神経外科医が中心となり,アジア諸国のてんかん外科医の学術交流,情報交換,親睦を趣旨として始められた学会です.第1回のソウル(2007),第2回の北京(2008),第3回の大阪(2009)などを経て,今回は日本で2度目の開催となりました.

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●臨床家に読んでほしい難解な法的議論を平易にまとめた学術書

 全国の第一審裁判所に提起される医療過誤訴訟の数をみると,1990年代から2004年にかけて急増し,その後は,同程度の数にとどまっている.しかし,訴訟には至らないかなりの割合の医事紛争が,当事者間の示談や各地の医師会などの機構を通じて,裁判外で解決処理されているため,実際に医事紛争数が減少しているのかどうかは明らかではない.1990年代からの医事紛争増加の理由として,医師数が増加して医療供給が量的に確保されたことによる患者数の増加,新薬・新技術の開発に伴う副作用や合併症の増加なども挙げられるが,第一の理由は医療に関する一般的知識が国民に普及し,患者の人権意識が高揚したことにある.このような患者の権利意識の伸張を背景に,近年の裁判所の考え方には大きな変化がみられ,近年の裁判例では,医療機関に要求される診療上の注意義務は厳しいものとなっている.

 それ以上に,仮に勝訴するにしても,患者からクレームを受けたり訴訟を提起されたりして,その対応に追われることは,病院・医療従事者にとって大きな時間的・精神的負担となる.何よりも,医事紛争を未然に防ぐ対策が,極めて重要である.医療事故や医事紛争は,それぞれの医療機関において,同じような原因で発生することが多い.したがって,過去の事例に学び,その原因を分析し,自院の医療事故や医事紛争の予防に役立てる取り組みが重要である.また,医事紛争は,医療従事者に法的意味での過失があり,その結果,悪しき結果が実際に患者に発生した場合にだけ起こるわけではない.医療従事者が法律知識を欠いているために,対応や説明を誤り,患者側の不信感を強めているという場合も多い.したがって,医療従事者は,広く病院・臨床業務に関する基本的な法律知識を学び,医療事故や医事紛争に対する適切な対応を習熟しておくことが必要である.このことは,医療機関の管理者だけではなく,実際に患者に接することになる,第一線で活躍する医療従事者にこそ望まれる.

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欧文目次

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会 期 2015年6月6日9:00〜19:00

会 場 興和創薬東京支店(日本橋)

お知らせ

ご案内 第39回日本脳神経外傷学会
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会 長 亀山元信(仙台市立病院院長)

会 期 2016年2月26日(金)・27日(土)

会 場 仙台国際センター(〠980-0856 仙台市青葉区青葉山 TEL:022-265-2211 FAX:022-265-2485)

「読者からの手紙」募集

投稿ならびに執筆規定

投稿および著作財産権譲渡承諾書

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 若林 俊彦
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 今年も新年度が始まった.その冒頭の「扉」に上羽哲也先生の「意識改革」が掲載されている.普段はにこやかでとても明るい先生からは想像もできないほどの苦悩に満ちた青春時代と,そこで見つめ直したパラダイムシフトが赤裸々に描かれており,その結果,「変わることを恐れない」強靱な精神を培われ,「足踏みは後退と同じ」の信念のもとで,「向上心をもち,今の意識をポジティブにシフトして,自由と寛容を目指す」決意が述べられている.新たな年度の始まりにふさわしい「巻頭言」である.高知の海がカリフォルニアの抜けるような青い空と紺碧の海に似ているという.まさに住めば都である.さて,「総説」では,前原健寿先生の「てんかんと高周波律動」が取り上げられている.新たなてんかんバイオマーカーとして最近注目を集めている病的高周波律動の原理と将来の有用性について多くの図表や実例を掲げながら,わかりやすく丁寧に概説されている.今までのてんかん焦点診断に用いられて来たスパイクよりもはるかにてんかん原性領域の同定に有用であり,今後のてんかん治療に大きな福音をもたらすのではないかと期待に胸が膨らむ.「脳神経手術手技」では中尾直之先生の「傍鞍部腫瘍に対する内視鏡下拡大蝶形骨洞手術」が掲載されている.近年の神経内視鏡手術手技は新たな器具の開発と相まって,適応拡大が急速に進んできている.今回は,そのなかでも鞍結節経由の傍鞍部腫瘍の手術手技に焦点を絞り,その局所解剖所見からの手術戦略を豊富なオリジナルの図入りで解説されており,今までにない極めて教育的な内容で大変理解しやすい.また,「連載:脳卒中専門医に必要な基本的知識」では,新妻邦泰先生の「無症候性脳血管障害」として,既存のガイドラインよりも後に報告された無症候性脳梗塞,大脳白質病変,脳出血,主幹動脈狭窄/閉塞,AVM,脳動脈瘤について,総数128編にも及ぶ文献から新しいエビデンスを抽出して概説し,現時点での対処方法が検討されており,極めて重要な情報提供がなされている.また,末梢神経の症例蓄積からの研究報告や,極めて有用な情報を含んだ症例検討,さらには,シャントパッサーの新たな器具試作報告のテクニカルノートなど,今回は新年度を飾るにふさわしい極めて情報量の豊富な論文が満載である.読者の明日からの診療や研究の一助となることを期待している.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
43巻4号 (2015年4月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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