Neurological Surgery 脳神経外科 33巻12号 (2005年12月)

No Man Alone 板倉 徹
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ワイルダー・ペンフィールドの自叙伝「No Man Alone」(西村書店,古和田正悦訳)を読んだ.癲かんの外科と大脳皮質マッピングの神様である.結論は「人生,ひとりじゃない」ということである.この中には医師は若い時代にどのような研鑽を積むべきか,が書かれており興味深い.ペンフィールドの医学生時代からモントリオール神経学研究所設立までの半生が自らの手で描かれている.

 プリンストン大学卒業後のペンフィールドは世界の一流の医師,研究者の教えを受けている.そのためには世界中どこへでも出かけて行った.アメリカの医学部在学途中でイギリスのオックスフォード大学へ入学する.そこにはウィリアム・オスラー卿が教授として学生の指導をしていた.オスラー卿はカナダ人で,誰よりも医学に貢献した偉大なヒューマニストであり,医師や学生に尊敬され,皆の規範だった.日本でも『平静の心』(日野原重明,仁木久恵訳,医学書院,2003年)の著者として名高い.ペンフィールドはオスラー卿と夫人に愛され,医師としての生活態度,基本的な心構えを教授される.

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Ⅰ.はじめに

 経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation;TMS)は,1985年にBarkerら2)により報告されて以来,多くの疾患で運動機能の評価に用いられるようなった.てんかん外科領域では,発作焦点が運動野近傍,もしくは運動野を含んだ広い範囲にあるとき,その切除を考えるうえで,運動野の正確な位置や予め運動機能を定量的に知ることは大変重要と思われる.一般的には,慢性硬膜下電極を用いたfunctional mappingによりその評価が行われるが,非侵襲的な評価が可能な点でTMSは有利と思われる.一方,2連発TMSによる運動誘発電位(motor evoked potentials; MEP)がてんかん症例の大脳皮質の興奮性を間接的に知り得ることが最近報告されるようになった4,5,9,11,15-17,19,20)

 本稿では,①半球切除術(hemispherectomy;HS)の適応が考えられる片麻痺例における,TMSによるMEPと運動皮質機能の手術予後との関連,②側頭葉切除術や脳梁離断術の適応が考えられる例における,2連発TMSと発作予後との関連,について述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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Ⅰ.はじめに

 経錐体骨法は頭蓋底部腫瘍,後頭蓋窩の血管性病変に対して用いられる機会が増えつつあり,一般的な手技として定着しつつある9,17,19).その進入部位,削除範囲によって様々なバリエーションがあるが,大別して中頭蓋窩経由で錐体骨を削除して到達する方法anterior transpetrosal approach 2,8,10)と,錐体骨側面を削除し後頭蓋窩よりに経由する方法posterior transpetrosal approach 5,12,13)とがある.種々のアプローチにおける手術法についてはそれぞれの文献を参照されたい.いずれのアプローチにおいても,側頭骨内の構造物を損傷せずに,あるいは意図的に削除して適切な術野を得ることが重要である.近年のナビゲーションシステムの進歩により,側頭骨内での構造物の確認は容易になった.しかし側頭骨の外科解剖を理解することが重要であることには変わりはなく,むしろ支援装置の発達した現在においても術者は支援装置に頼りすぎることなく外科解剖の把握に努めるべきである.複雑な側頭骨解剖においては,その中心に位置する顔面神経の走行と内耳諸器官を中心に考えると理解しやすい.その際,本来耳鼻科の領域でもある側頭骨解剖においては普段脳神経外科医にとって馴染みの少ない耳科領域の解剖も関与してくる.昨今,外科解剖を理解するために各地で遺体解剖実習が開催されており,側頭骨解剖を理解するために役に立っている.本稿では顔面神経の走行と内耳諸器官,周囲構造物との関係を中心に,遺体解剖標本作成過程を通じて,側頭骨解剖について解説する.

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Ⅰ.はじめに

 CT上大脳基底核などに脳脊髄液と同等の脳内低吸収域をみたとき,その病変が過去の脳出血か脳梗塞か迷うことがしばしばある.この鑑別は慢性期の治療にも重要なことと考えられるが,通常のMRI撮影条件でも鑑別が困難な場合がある.MRIでは,赤血球内のヘモグロビン鉄の変化によって血腫の信号強度は経時的に変化する2-4,15).ヘモグロビン鉄は,最終的にマクロファージ内のヘモジデリンとなり,この検出にはgradient-echo T2*強調MRIが最も優れた方法の1つである1-5,7,15)

 われわれはラクナ梗塞のT2*強調MRIの検討を行ってきたが6,11,12),microangiopathyによる微小点状脳ヘモジデリン沈着以外,ラクナ梗塞周囲に血腫はなかった.これらの研究では,T2*強調MRIでみられる長径が1cm以上の低吸収域をすべて過去の出血として考えてきた.しかし,脳出血がヘモジデリン沈着として画像上描出される期間は明らかでなく7),また,脳室内出血,くも膜下出血を合併するものや,外科的治療などの因子が血腫残存についてどのように影響するかも不明である.そこで,過去に脳出血の既往のある外来通院症例に対しT2*強調MRIを施行し,ヘモジデリン沈着に関連する種々の因子を多変量解析にて検討した.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋咽頭腫は全脳腫瘍の3.5%を占め,5~15歳の小児と40~60歳の成人に好発し17),その治療方針は「小児は全摘をめざし,成人は可及的摘出にとどめる」と一般に認識されている4,5,8,12,13).一方,高齢で発症する頭蓋咽頭腫は稀で,特に80歳以上の高齢者の発症は日本脳腫瘍統計でも頭蓋咽頭腫1,823例中9例と全体の0.5%を占めるに過ぎず,一施設の経験数も少なく,高齢者頭蓋咽頭腫に対する治療方針については明らかではない.

 今回われわれは,急速な視力視野障害を呈した80歳頭蓋咽頭腫の稀な症例に対し可及的摘出術と放射線療法を行い良好な結果を得たので,高齢者頭蓋咽頭腫に対しての手術適応,手術方法に関する考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋内くも膜囊胞は,脳槽あるいはくも膜下腔と解剖学的関係をもって発生する良性囊胞性疾患であるが,稀に脳室内に発生することがある13)

 本論文では,神経内視鏡を用いて治療し得た側脳室くも膜囊胞について,文献的考察とともに報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋内感染性疾患のなかでも硬膜下膿瘍自体が頭蓋内膿瘍の20~25%と比較的稀であり,しかも大半は膿瘍壁に囲まれた腔内に膿汁が貯留した形状をとっている5).最近われわれは,感染により形成された炎症性肉芽腫が硬膜下腔から頭蓋骨を破壊して頭皮下に進展していた1例を経験した.類似した形状,進展を呈する炎症性肉芽腫は極めて稀であったので,若干の文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋咽頭腫の治療は経頭蓋的に腫瘍摘出術が行われることが一般的である.しかし高齢者では基礎疾患を有する患者も多く,術後合併症の頻度も高い.そこで重篤な基礎疾患を有する高齢者の頭蓋咽頭腫患者ではできるだけ低侵襲での治療が望まれる.近年,神経内視鏡を応用した治療法も散見されるようになってきている4-8).今回,われわれは僧帽弁閉鎖不全症に伴う慢性心不全および心房細動の既往をもつ高齢者の再発頭蓋咽頭腫例に対し,局所麻酔下に神経内視鏡を用い良好な結果を得た.そこで症例を呈示し,高齢者頭蓋咽頭腫に対する治療戦略や手術手技を中心に報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Rathke's cleft cystはトルコ鞍内に局在するもの,ないし鞍内から鞍上部に伸展した鞍上部伸展型がほとんど4)であり,鞍上部に限局したものはentirely suprasellar Rathke's cleft cystと呼ばれ,比較的稀1,6,12)である.今回われわれは,くも膜下腔に沿って伸展し,くも膜囊胞との鑑別が困難であった症候性entirely suprasellar Rathke's cleft cystの1例を経験したので文献的考察を含め報告する.

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Ⅰ.はじめに

 前頭蓋窩硬膜動静脈瘻は全硬膜動静脈瘻の6%と比較的稀であり1),その多くが頭蓋内出血で発症する.しかし非出血発症例は比較的少なく,その手術適応についてはいまだ議論が多い.今回,出血発症例と非出血発症例それぞれの手術例を経験し,それらの病理組織学的所見から発症病態と治療方針に関して示唆的な所見を得たので文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Lhermitte-Duclos diseaseは,小脳半球に限局した腫瘤を形成し,緩徐な発育を示す稀な疾患として知られている5).MRIでは肥厚したfoliaが平行に,線状に描出されるparallel linear striationといった特徴的な所見を有し,術前診断も容易になってきている3,8,12,15,19,21).近年,種々の身体奇形を合併し,常染色体遺伝疾患であるCowden syndrome(multiple hamartoma syndrome)7)の一部としても位置づけられており,皮膚と粘膜の過誤腫,内臓臓器の過誤腫,顔面頭蓋骨異常,悪性腫瘍の合併が特徴されている1,11,14,20,21).今回, Lhermitte-Duclos diseaseとの併発が疑われたatypical meningiomaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

読者からの手紙

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貴誌に掲載の目黒俊成先生らの症例報告「脳室穿刺により気脳症を合併した1例」(No Shinkei Geka 33:607-610)を興味深く拝読いたしました.用手的脳室穿刺の不成功による合併症を述べておられますが,私も後角穿刺例において不成功は多数経験しております.複数回の穿刺を行うも脳室に達せず断念した例もあります.この経験に鑑み,適正な穿刺方向を求めるために,イニオン,穿頭部,脳室構造のジオメトリーを検討したところ,これらの間の位置関係は個体差が大きく穿刺方向の標準化は不可能との結論を得ました1).このため,この数年は予定する穿頭の位置に金属マーカーを貼り,スカウトビューを含むCT検査を術前に行っています(Fig. 1).拡大印刷したスカウトビュー(可能であれば実寸大が距離の測定に便利)のリファレンスライン上に側脳室の輪郭をプロットすることで,sagittal,axialの両平面上で穿頭位置,脈絡叢を避け前角に達する穿刺方向とそれにより決定される前額部のaim point,脳室に達する距離を確認できます.マーカーの位置を基準に,穿頭の位置は頭尾側,内外側に適宜変更します.プロットの手間を要しますが,手術時の安心感は変え難いものがあり,本法導入により術中のdisorientationは著減しました.併せて矢状線が床と平行になるよう体位をとることもdisorientationの予防に有用です.術中に超音波ガイド下に穿刺される施設もあると思われますが,今回提示の方法ではその前段階である穿頭位置の確認も行えます.ナビゲーション装置の登場した現在,原始的な方法ではありますが,もはや教科書どおりの体表ランドマークを基準とする穿頭位置,穿刺方向で画一的に本手技を行うことは避け,術前に症例ごとのtailored planningが必要と考えます.

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はじめに

 PDAとはpersonal digital assistant(個人携帯情報端末)の略で,簡単に言えば,携帯できる小さなパソコンということになります.パソコンがまだまだ大きかった時代につけられた名前のため,現在聞くと曖昧なネーミングとなってしまっています.電気店では電子手帳といわれる分類で販売されています.具体的には,SONYのCLIE,SHARPのZaurusなどの商品があります.

 PDAはノート型パソコンと違い,はるかに小さく軽いため非常に携帯性に優れています.デスクワークが少なく常に動き回る医師には,まさに最適な携帯端末といえます.このPDAは,以前から欧米の医療者を中心に広く使用されていました.米国内科医会が2001年に行った調査によれば,米国の内科医の47%がPDAを使用しており,さらに全体の67%がこれから使用しようと考えているという結果がでています1).PDAは日本の医療者の間でも徐々に使われてきており,最近では医師の使用者が増えてきている印象もあります.それはPDA自体のもつ有利な点が,医者という仕事にぴったりマッチするためです.今回はPDAについてまとめてみることで,その有効性について考察してみました.2004年にthe West Virginia University School of Medicineで行われた調査によると,医学生にPDAを与えて仕事をさせたところ仕事のミスが減少したと報告があります2).忙しい日常診療にあたる脳神経外科医にとっては,PDAは仕事をよりスピーディーでかつ確実なものにしてくれる大切なパートナーといえます.

 後ほど説明しますが,医療界で使用されているPDAの多くがPalm OS搭載端末のため,ここではPDAとは狭義にPalm OS搭載端末のことをさすことにします.

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

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はじめに

 沼田脳神経外科循環器科病院は2004年7月1日より,試行適用病院として急性期入院を対象とした診断群分類包括評価(DPC)を導入した.

 DPC制度は2003年4月1日より全国の特定機能病院(82施設)において開始導入された.さらに1年間後の2004年より,DPC試行適用病院(62施設)でも試行導入された.このDPC試行適用病院には,旧国立病院や社会保険関連病院のような大規模公的病院以外に当院のような民間病院も含まれている.

 DPC導入の背景には医療費の抑制・削減があるが,同時に医療機関の医療コスト効率化と医療の質の向上という大きな目標が存在することを忘れてはならない.日本全体の医療効率と質向上を実現させるためには,特定機能病院のような一部の大規模病院だけに導入するだけでなく,小規模病院を含めた末広がりの導入が必要となる.実際2005年には,試行適用病院よりさらに枠を拡大して調査協力病院からもDPCのデータ収集が開始されている.次期診療報酬改定以降にも導入対象あるいは試行病院数が増やされ,近い将来には一般中小病院を含めた急性期病院すべてに「急性期包括評価の普及導入」がなされるであろう.

 当院は現在,DPC試行適用病院の中で最も小規模(急性期病床65床)な病院である.小規模であるが故に,DPCに合わせて経営や医療の質の向上に真剣に取り組んできた.幸いにもこれまでの医療の質を保持しつつ,経営的にも良好な結果となっている.これからDPCを導入しようとしている中小規模病院(特に脳神経外科単科病院)にとっては,ひとつのモデルケースとなろう.

 筆者はこれまでDPCの制度概要および脳神経疾患における各論的な事項を述べてきた1-16).本報告では当院での導入後1年間のDPC運用成績について報告し,合わせてDPC導入による経営以外の効果について考察する.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
33巻12号 (2005年12月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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