日本看護科学会誌 21巻2号 (2001年8月)

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要旨

 本研究の目的は,妊娠末期から産後15週までの母親の睡眠・覚醒パターンの変化を初・経産婦別に検討した.初産婦14名と経産婦12名には,分娩前7週から産後15週目までの間の睡眠日誌と,このうち8名の母親には,彼女らの新生児の睡眠日誌をそれぞれ同時に連続して記入をお願いした.産後1週から11週までは,妊娠末期に比して夜間の全睡眠時間の有意な短縮と入眠後の覚醒時間の有意な増加を示した.また,睡眠効率は,産後1週から8週まで有意に減少していた.とくに,初産婦群の産後2週から6週にかけては,経産婦群に比して覚醒時間の増加と1回当たりの覚醒持続時間の延長,および睡眠効率の減少が大きかった.

 以上の結果から,母親の夜間睡眠の乱れは,とくに初産婦群で大きく,産後11週頃までその乱れは持続するが,彼女らの乳児の睡眠・覚醒リズムもしくは授乳リズムの発達とともに,12週以降に母親の睡眠・覚醒リズムもほぼ正常なパターンに復帰していくものと推測された.

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要旨

 子どもが検査・処置をどのように体験しているのかを明らかにすることを目的として参加観察を行い,子どもが処置を体験するプロセスの中で「覚悟」という現象と,覚悟に至る要因が抽出された.処置を受ける子どもと親,および処置を担当した看護者・医師の4者18組を対象とし,おもにgrounded theory approachを用いて,処置場面の参加観察,および処置に対する思い・説明内容等について半構成的インタビューを実施し分析を行った.その結果,以下のことが明らかとなった.

 子どもの“覚悟”という現象は,「処置を受けるにあたり,情緒的・認知的・精神運動的側面のバランスをとり,処置を主体的に受容している状態」であった.そして,覚悟に影響を与える要因として【まわりのゆとり】【過去の経験のイメージ】【子どもが選択できる可能性】【まわりとの一体化】【処置に対する代償利益の確認】【自らする覚悟の宣言】が挙げられた.

 覚悟に影響する6つの要因はどれもが子どもの自我機能強化につながっており,その強化の仕方によって,①子ども自身がもともと持っている認知・情動との調整をはかって行動化する力(自我機能)が十分に発揮されるあり方,②子どもが認知と情動との調整をはかる主体であるということをまわりも認めることで,子どもが自己コントロール感を取り戻し,自ら行動化しやすくなるあり方,③子どもの中で拭いきれない強い情動のゆれ(自我機能を弱めさせる外界からの力)にタイミングよくふんぎりをつけさせて行動化できるあり方,の3つに大別され構造化されていた.

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要旨

 正常分娩経過中の産婦の体温変動を明らかにすることを目的に本研究を行った.正期産で経腟分娩した33例の産婦の体温を継続測定したところ,以下の結果が得られた.なお,測定開始時間は6 : 00~14 : 00とし,子宮口開大5 cm以内から測定を開始した.本研究における“体温”は皮膚温を指標にし,測定には深部温モニター,コアテンプ®CTM-205を使用した.

1.正常分娩時の体温の範囲

 中枢深部温の測定値は,34.2~37.9℃の範囲で,個人内の変動幅の平均は1.3±0.6℃だった.末梢深部温は25.7~36.7℃の範囲で,個人内の変動幅の平均は4.1±2.3℃だった.いずれも従来の報告より範囲が広がっていた.腋窩では児娩出時平均が37.1℃で,38℃以上の者が5例あった.しかし分娩12時間後には自然に下降し新生児にも感染徴候を認めなかったことから,分娩時のみの体温の上昇は感染などの異常を生じるものではなかった.

2.個人内温度変化

 分娩進行の時間経過にそって有意に温度変化が認められたのは中枢深部温26例で,そのうち上昇15例,下降11例であった.末梢深部温では28例に有意な温度変化が認められ,上昇6例,下降22例であった.

 以上より,正常分娩経過において体温は38℃以上になることがあるのを確認した.また,体温変動の傾向としては中枢・末梢ともに上昇・下降・著変なしのいずれも認められた.分娩時には通常の日内変動を越える体温変動が生じることがあり,体温の変動は感染などの異常をアセスメントするだけでなく,分娩進行状況を判断する指標となりうることが示唆された.

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要旨

 本研究は,「実習教育に対する教師効力」を高める方策を考えるために,我が国の実習教育の実情に合った「実習教育に対する教師効力」を測定できる尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検証することを目的とした.看護系大学の助手433名に予備調査で信頼性・妥当性の検討を経て作成した調査用紙を郵送し,245名より回答を得た.項目検討の後に因子分析を行ない7因子28項目を抽出し,尺度Self-Efficacy Toward Nursing Practice Teaching Inventory(以下SENPTIと表わす)を作成した.SENPTIは,7因子からなり,第1因子より順に『カンファレンスを実施できる自信』『看護実践能力を活用できる自信』『学習者としての学生を尊重する自信』『学びを深めるために技法を活用できる自信』『実習教育の準備ができる自信』『学生の状況を判断できる自信』『学生の学びを促進できる自信』と命名した.これら7因子の累積寄与率は,57.8%であった.SENPTIの妥当性は,内容的妥当性,基準関連妥当性について検討を行なった.基準関連妥当性については,一般性自己効力を測定しているセルフ・エフィカシー尺度と中程度の相関があることを確認した.信頼性は,Cronbach's α=0.937により確認した.また,実習教育に対する教師効力と関連する概念の検討において,「実習教育に対する教師効力」と職業への志向性,職務満足感について関連がみられた.これらのことから,SENPTIは,「実習教育に対する教師効力」と関連要因の検討に使用可能な尺度あると考えられた.

研究報告

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Ⅰ.はじめに

 我が国の高齢者人口は歴史的にも過去に見られないほど急速に増加している.人口統計によると,65歳以上人口が500万人を越えたのは今から40年前であったが,それから20年後の1980年には1000万人を越え,現在は2000万人に至っている.高齢者人口の増加は健康度の向上によりもたらされたもので,医療保健活動の進歩と普及の成果と考えられる(柄沢昭秀,1998).しかし,高齢者は,人間にとって避けられない必然的な現象であるAging(以下,エイジングと表記する)という成長発達のプロセスの一時点に存在している.

 エイジングを研究の焦点とする老年学研究において基本的な焦点は老化現象に関連して起こる機能低下や喪失に置かれている(Riley. et al.,1994).エイジングに関する予想は個人の上にも社会の上にも喪失の不安や増えるコストや荷重という特徴が付けられ易いことは驚くことではない.このようなエイジングの否定的な側面以外にも,エイジングを成長,バイタリティー,精励,満足感を含んだ現象として捉える肯定的な側面を取り上げる研究もある.数人の生物学者や医学者は,successful(以下サクセスフルと表記する)で肯定的なエイジングは多面的な性質や多大な変化性を持つものとして,公正な理解のために高齢者の概念として重要であると述べている(Fries,1989;Rowe&Kahn,1987).また,殆どの高齢者が,若い時よりも現在の方が満足だと感じている(Herzog&Rodgers,1981).今まで高齢者は一般に否定的なステレオ・タイプなイメージを持たれていたが,一方,人生の主なターニング・ポイントを通過しながらライフ・コースの残されたステージを進みつつ,未来は開かれていると言う期待を持って進んでいる者もある.高齢者は老化現象による身体的自己や精神的能力,自己の思考に対する他者の対応方法の変化をも感じている.エイジングを理解するためには,個人の細胞レベルから人々に影響を与える社会全体の問題までどのようなプロセスを経ているか,個人的体験を越えた見解まで拡大することが求められている(Morgan,1998).欧米諸国の老年学を始めとする種々の分野での研究では,エイジングを肯定的側面であるサクセスフル・エイジングにも積極的に取り組もうとする傾向が見られる.しかしサクセスフル・エイジングに関する看護・保健医療・福祉領域での研究の取り組みは十分とは言えない.

 従って,本稿ではWalker&Avant(1995)による概念分析法の手順に基づき,看護実践や研究における「サクセスフル・エイジング」の概念の応用性を高めることを目的として,「サクセスフル・エイジング」の概念分析を行う.

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Ⅰ.はじめに

 わが国における造血幹細胞移植(Hematopoietic Stem Cell Transplantation : HSCT)は,1975年に行われた骨髄移植(Bone Marrow Transplantation : BMT)に始まる(正岡, 1991).今日のHSCTでは,骨髄細胞のみならず,末梢血幹細胞,臍帯血幹細胞などの造血幹細胞が用いられ,造血器腫瘍をはじめとした化学療法感受性悪性腫瘍に対する根治的治療法として注目されている(平井, 1999).

 このHSCTに不可欠なものとして,無菌室は存在する.これまでの無菌室に関する研究は,感染予防の観点からどのようにすれば室内清浄度が維持できるのかに焦点があてられてきた(小口ら, 1994;石黒ら, 1994).また,近年では患者のQOLや病院経営の観点から,無菌管理の簡略化に関する研究(岡島ら, 1994;Duquette Petersen et al., 1999)が積極的に行われるようになり,その安全性と可能性が報告されている.しかし,わが国では,医療者間での十分なコンセンサスが得られていないため,未だ各々の施設によって無菌管理方法が大きく異なっているという状況にある.

 一方,無菌室が患者をストレスフルな状況に陥らせることは,以前から報告されている(上野ら, 1996;腰原, 1997).特に,無菌室の中で生活する患者への精神的ケアに関する既存の研究は,実践した看護を振り返ったもの(西向ら,1991;稲月ら, 1991;吉井ら, 1997;山田ら,1998;松田ら, 1998)が多い.また,造血幹細胞移植にかかわる看護婦・士のケア行動に焦点をあてた研究には,骨髄移植を受けた患者の診療記録と看護記録の内容を分析したWinters, et al.(1994)による記述的研究が存在する.ところが,この研究は骨髄移植を受ける患者の看護過程全体を捉えたものであり,無菌室という場に限定した看護婦・士のケア行動を説明したものではない.

 本研究の目的は,無菌室で生活する患者に対して,看護婦・士がはたらきかける相互作用の実際を参加観察することによって,看護婦・士による精神的ケア行動の意味と構造を明らかにすることである.このことにより,現実に即した精神的ケアを展開するための基礎的資料を得ることができると考える.

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Ⅰ.はじめに

 医療の進歩に伴い,さまざまな薬剤の開発がすすみ,抗がん剤はその使用頻度や種類の増加,使用方法の多様化とともに,欠かすことのできない存在となっている(小川, 1999;高橋,2000).しかし,有効な薬理作用を有する反面,抗がん剤は正常組織への影響が大きく,重篤な副作用が出現することがある(国立がんセンター中央病院看護部, 2000).中でも抗がん剤の血管外漏出は,不幸にして発生すると,疼痛を伴う組織傷害を引き起こし,時に重篤な機能障害を残すことが知られている(石原, 1996;柳川,1998).このように抗がん剤の血管外漏出は,皮膚傷害という身体的なダメージに加え,疼痛からくる不眠,皮膚組織の傷害による運動制限など,患者のQOLにも大きく影響する.さらには,漏出部はいつ治癒するのかといった不安や再発への恐怖心を抱かせ,治療継続の妨げにもなり得る重要な問題である(国立がんセンター中央病院看護部, 2000;柳川, 1998).このため,化学療法に携わる看護職者は,その予防と早期発見に努める立場にあること,また発生時には迅速かつ適切な看護処置,観察が必要であることが強調されている(Berg, 1996;Goodman, 1997;Langhorne, 1997;Martin, 1996).

 抗がん剤の血管外漏出については,予防のための観察ポイントや対処の仕方に関する具体的な看護ケアについて多くの報告がなされている(Berg, 1996;Goodman, 1997;Langhorne, 1997;Martin, 1996).しかしながら,一般的に抗がん剤漏出時の皮膚傷害の程度は,その種類,濃度,漏出量によって異なる(石原, 1992;Berg, 1996)といわれているにもかかわらず,実際にはその傷害性の程度を組織学的に裏付けるデータはほとんどない.科学的根拠に基づく看護ケアを実践するためには,抗がん剤漏出部の質的変化(組織学的変化)について理解を深める必要がある.

 そこで本研究では,タイプの異なる各種抗がん剤の血管外漏出による皮膚傷害について,ヒト皮膚組織での検索は困難であるので,実験動物(ウサギ)を用いて,その程度について肉眼的観察とともに組織学的検討を行った.

基本情報

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日本看護科学会誌
21巻2号 (2001年8月)
電子版ISSN:2185-8888 印刷版ISSN:0287-5330 日本看護科学学会

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