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Ⅰ.はじめに
わが国における造血幹細胞移植(Hematopoietic Stem Cell Transplantation : HSCT)は,1975年に行われた骨髄移植(Bone Marrow Transplantation : BMT)に始まる(正岡, 1991).今日のHSCTでは,骨髄細胞のみならず,末梢血幹細胞,臍帯血幹細胞などの造血幹細胞が用いられ,造血器腫瘍をはじめとした化学療法感受性悪性腫瘍に対する根治的治療法として注目されている(平井, 1999).
このHSCTに不可欠なものとして,無菌室は存在する.これまでの無菌室に関する研究は,感染予防の観点からどのようにすれば室内清浄度が維持できるのかに焦点があてられてきた(小口ら, 1994;石黒ら, 1994).また,近年では患者のQOLや病院経営の観点から,無菌管理の簡略化に関する研究(岡島ら, 1994;Duquette Petersen et al., 1999)が積極的に行われるようになり,その安全性と可能性が報告されている.しかし,わが国では,医療者間での十分なコンセンサスが得られていないため,未だ各々の施設によって無菌管理方法が大きく異なっているという状況にある.
一方,無菌室が患者をストレスフルな状況に陥らせることは,以前から報告されている(上野ら, 1996;腰原, 1997).特に,無菌室の中で生活する患者への精神的ケアに関する既存の研究は,実践した看護を振り返ったもの(西向ら,1991;稲月ら, 1991;吉井ら, 1997;山田ら,1998;松田ら, 1998)が多い.また,造血幹細胞移植にかかわる看護婦・士のケア行動に焦点をあてた研究には,骨髄移植を受けた患者の診療記録と看護記録の内容を分析したWinters, et al.(1994)による記述的研究が存在する.ところが,この研究は骨髄移植を受ける患者の看護過程全体を捉えたものであり,無菌室という場に限定した看護婦・士のケア行動を説明したものではない.
本研究の目的は,無菌室で生活する患者に対して,看護婦・士がはたらきかける相互作用の実際を参加観察することによって,看護婦・士による精神的ケア行動の意味と構造を明らかにすることである.このことにより,現実に即した精神的ケアを展開するための基礎的資料を得ることができると考える.
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