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1 はじめに
今日,子どもの心に対する専門的な支援において,発達特性の理解や診断,行動上の困難への対応や環境調整などが重視されている。もちろん,それはいずれも重要な支援である。一方で,子ども自身が何を感じ,何に苦しみ,どのように他者との関係性のなかで自分の心を育んでいくのか,という視点が見失われやすくなっているように思われる。たとえ神経発達的な困難を持つ子どもの場合であったとしても,子どもが他者との関わり合いのなかで,さまざまなことを感じ,考え,動いているその子ども自身の心は必ず存在する。私は子どもの内的世界やパーソナリティの発達に焦点を当て,心の成長を促す精神分析的心理療法は,心に困難を抱える子どもたちにとって,重要な経験を提供しうるものだと考えている。
私は日々,子どもと家族に関わる臨床実践を行なうなかで,子どもの個人心理療法,親面接,親子面接や家族面接など,子どもと家族の状態やそれぞれのニーズに応じて設定を調整しながら,その時点で最適と思われる心理療法設定を創造することを大切にしてきた(小笠原,2015,2025)。本稿では,軽度知的障害を伴う自閉スペクトラム症の女児との約1年間の週1回の子どもの精神分析的心理療法と,短時間の母子同席面接という設定で母親とも継続的に関わった実践を取り上げる。
週1回の子どもの精神分析的心理療法は,精神分析的な観察を基盤にした臨床実践である(小笠原,2026)。Harris(1971)は,週1回の精神分析的心理療法においては,子どものパーソナリティ構造に全面的な変容をもたらすことを直接の目標とするよりも,子どもの心の内にある健康な部分や成熟した側面を,より自由に活用できるよう援助することに意義があると述べている。また,家庭や学校といった子どもを取り巻く外的環境との協働や連携が不可欠である一方で,心理療法が外的要請のみに規定されないように,セラピストが子どもの心の状態をしっかりと観察し,注意を留め続ける必要があることを指摘している。こうした文脈から,Harrisは技法的修正の必要性を示し,とりわけ「観察」を基盤とした臨床実践の重要性を強調している。
また,Lemma(2025)は,頻度の高い精神分析と週1回の精神分析的心理療法の共通基盤とそれぞれの独自性に触れながら,精神分析的実践を規定する本質は外的な設定や頻度そのものではなく,転移-逆転移という心の関わり合いの経験に根差して心の状態を理解しようとするセラピストの分析的態度,つまり内的な設定であると指摘している。この観点は,週1回という制約のもとにおいても,子どもの心に関わる精神分析的な実践が成立しうる根拠を示している。
以下の事例は,そのような実践の一端である。

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