読者談話室
生きる力・育む力
山内 葉月
1
1熊本大学大学院生命科学研究部
pp.1005
発行日 2010年11月25日
Published Date 2010/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665101757
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それにしても,今年の梅雨はひどかった。35度を超すカンカン照りかと思えば,バケツをひっくり返したような突然の豪雨というありさまであった。
そんな7月も半ば過ぎの,梅雨の中休みのよく晴れた朝だった。いつになく甲高く騒々しい鳥の声が耳につく。しばらく経っても治まらない鳴き声に,北側のドアを開けてみた。すると,ドアの音に驚いたかのように,鳴き声はぴたりと止んだ。ドアを閉めてまもなくすると,鳴き声は一段と甲高く響き渡った。普通でない雰囲気に,ふたたびドアを開けてみると,なんと,鶏の卵ほどの小さな雀の子が,塀の内側の狭いすき間で身を震わせていた。巣立ちに失敗して落ちてしまったのだろう。甲高い鳴き声の正体はこの子であり,取り巻く騒々しさは,親鳥たちの取り乱した様子を物語る,ある雀家族にとっての大事件であったと,なぞは解けた。
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