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はじめに――「争う」から「合意をつくる」へ
離婚は,家族の生活が大きく変化する重大なライフイベントだが,特に子どものいる夫婦にとっては,離婚に際して取り決めておくことが多くある。例えば,親権や養育費,面会交流といった法的事項はもちろんのこと,子どもがいるからこその話題として,子どもにどのタイミングで親の離婚を説明するのか,転校や転居はどうするのか,祖父母やいとこなど,別居親の親族との関係はどう考えるか,そういった話題も付随してくる。しかし,離婚する夫婦がそういった話題を十分に話し合い,取り決めていく作業はそう簡単ではない。
誰しも「幸せになりたい」という思いで結婚する。しかし,残念ながら,結婚生活が幸せでなかったときに選択されるのが離婚である。すなわち,離婚は,「今より幸せになるための前向きな決断」と言ってよい。しかし,日本社会においては,現代でもなお離婚はタブー視され,そう簡単には選択されない。特に子どもがいる夫婦は,子どものためにぎりぎりまで我慢する。そうした夫婦は既に日常の連絡事項や挨拶さえ円滑にできなくなっていることも多く,離婚条件や子どもの生活の変化について,冷静に話し合って取り決めていくことは至難の業なのだ。
では,どうするか。残念ながら,一番多いのは「何も取り決めずに離婚だけする」という選択肢だ。「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果(厚生労働省)」によると,養育費を取り決めたのは,母子世帯で46.7%,父子世帯にいたっては28.3%となっており,過半数に満たない。極限まで我慢した夫婦にとって夫婦間協議はあまりにハードルが高いのだ。一方で,そうした際に利用できる家庭裁判所や弁護士といったツールも実は利用に一定のハードルがある。家庭裁判所での解決は長引いたり,紛争性が増すイメージがあるし(離婚の際,家庭裁判所を利用する人は離婚全体の10分の1に過ぎない),弁護士に依頼するとなると,100万円前後の費用がかかる。このように,夫婦では話し合いが困難な場合が多いが,その次の手段である家庭裁判所や弁護士はハードルが高いという現状がある。すなわち,離婚協議の選択肢が少ないのだ。そして,今後,新しい選択肢の一つになりえるのが本稿のテーマである「ADR(裁判外紛争解決手続き)」である。本稿では,特に子どものいる夫婦の離婚ADRの意義や進め方,具体事例,そして展望について実務の視点から整理する。

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