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はじめに
我が国では,精神疾患による長期入院の問題が依然として深刻である。令和元年度の精神保健福祉資料によれば,1年以上の長期入院者は全入院患者の6割強,5年以上の入院者も3割以上を占める(厚生労働省,2020)。その多くは統合失調症などの重篤な精神疾患に罹患しており,症状の慢性化や意欲低下,対人関係の困難などが,地域移行や社会復帰の妨げとなっている。
従来の認知行動療法(CBT : Cognitive Behavioral Therapy)は,うつ病や不安症などを中心に効果が実証され,精神科臨床において一定の役割を果たしてきた(Weitz et al, 2015)。しかしながら,CBTは主に「症状の軽減」を目的とした疾患中心のアプローチであり,陰性症状や社会的引きこもりが強い人々に対しては,その限界が指摘されてきた。また,治療の臨床アウトカムが医療者主導で定められがちである点も,当事者中心の支援という近年のパーソナルリカバリーの潮流と乖離があった。このような背景のもとで登場したのが,リカバリーを目指す認知療法(CT-R : Recovery-Oriented Cognitive Therapy)である(Beck et al, 2021a)。CT-Rは,故Aaron T. Beck博士らが開発した新しい認知療法であり,患者の強みやポジティブな側面を見つけ,そして活かし,個々の希望や願望に焦点を当てる。さらに,患者を「病者」としてではなく「個人(individual)」として捉え,人生における意味や喜びを再発見することを治療の出発点とする。
本稿では,このCT-Rの背景と概要を紹介した上で,重篤な精神疾患に対する実臨床とその効果,さらに看護やリハビリテーションとの連携を通じた具体的実践,今後の展望等を論じる。日本の精神医療における構造的課題と向き合いながら,回復を実現するための心理社会的支援の在り方を,読者と共に再考していきたい。

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