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はじめに
1990年代に入って,先進諸国における精神保健をめぐる考え方は大きく変化している。それを象徴する概念が回復(recovery)(以下,リカバリーとする)である。その多大な影響力の割に,これまでわが国では断片的にしか取り上げられてこなかった23,24,30~33)。この領域に関するはじめての総合的な成書であるRalphとCorrigan9)では,「リカバリーは,この十年に生じた精神保健と精神保健サービスのパラダイム変革を知らせる呼笛である」と始まる。
リカバリーとは病気から回復することなのであるが,その意味するものが結果なのか過程なのかという疑問が概念を整理してくれる。家族やサービス提供者はしばしばリカバリーを結果としてとらえ,症状がなくなって,元に戻ることができれば良しとする。一方,消費者(consumer)・生存者(survivor)・前患者(ex-patient)(これらをC/S/Xと称する)たちは過程として理解している。たとえ病気が治ったとしても,人生が「元に戻る」ことはない。リカバリーで意味しようとしているのは,単に疾病の回復ではなく,人生の回復を考えようとしている。破滅的な状況や繰り返されたトラウマからの回復という全体的な人間性の再獲得が目標となる。そこで第三の視点である見方(vision)としてのリカバリー概念が浮上する46)。この場合は,それを阻害しがちな精神保健サービスや制度,そして専門家たちのあり方までもが対象となってくる。
リカバリー概念は一言で定義されにくく,その現れ方は個々人で多様である。本論はこれまでの研究を整理することを通して,この概念を明らかにしようとする試みである。
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