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I Homeを創る
現在のハウス(障害福祉サービスにおける「共同生活援助」,グループホームという)は開業してから2件目の建物になる。1件目は利用者たちが「田舎のおばあちゃん家みたい」と表現する6LDKのとても大きな一軒家だった。中庭があってそこで野菜を作ったり,葡萄棚には秋になるとたくさんの葡萄が実った。一方,野ネズミや毛虫などに悩まされ,そのたびにみんなが大騒ぎをした。何回も建て増しをしたと思われるその家には,私たちのほかにも,玄関は別だが,二人のお婆さんが間借りしていた。
そのハウスが,入居して12年ほど経った12月の寒い朝に,火事で焼けてしまった。当時北海道の住宅には,屋根に積もってしまった雪を溶かすための装置をつけることがあったのだが,火事の原因はハウスにあったその装置の老朽化による漏電とのことだった。
幸い1階のお婆さんは入院していたので難を逃れ,火元に一番近かった2階のお婆さんは,異変に気づきすぐに避難して無事。そしてハウスに住んでいた5名の利用者も全員避難して無事だった。あいにくその日は月曜日の早朝で,前日の日曜日には当直が入らない。大家さんが設置した火災報知器がちゃんと作動したのにもかかわらず,利用者たちは「誤作動なんじゃない」などと,わざわざ電源を切りに玄関まで行ったと後で聞いた。しかし2階の部屋に戻ってみたら火柱が見え,慌てて全員が声を掛け合って非難したのだという。今でこそ笑い話だが,一報を聞いたとき,私は生きた心地がしなかった。
現在のハウスはそれに比べると,こじんまりとした4LDKの同じく一軒家だ。リビング横にあった大きな和室を2つの洋室に改築し,火災報知器や非常灯などグループホームの設置基準を整えた。薬物依存を抱える息子さんのことで苦しみ,その後の回復を共に喜んだご夫妻が,ハウスの大家さんだ。近隣のごく限られた方にハウスのことを伝えたが,ここは女の子たちのシェアハウスで,私はそこの管理人ということになっている。パトカーや救急車がやたらと来るので,お隣はきっと訝しんでいると思うが,雪かきのときなどご挨拶をしたりして,それなりにコミュニティのなかにひっそりと存在している。

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