特集 トラウマインフォームドケア
逆境的小児期体験(ACEs)とトラウマインフォームドケア
菅原 ますみ
1
1白百合女子大学人間総合学部
pp.428-433
発行日 2025年7月10日
Published Date 2025/7/10
DOI https://doi.org/10.69291/cp25040428
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I はじめに
Felitti et al.(1998)が,虐待やネグレクト,DV,親の精神病理などの逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experiences : ACEs)と成人期の心身の健康問題との密接な関係性を報告して以来,予防医学や小児科学,保健学,心理学,社会福祉学などの領域でACEsに関する実証研究が数多く行われてきた(Kim & Royle, 2025)。また近年の発達心理学的なACEs研究では,生涯発達におけるACEsのネガティブな影響性を予防したり緩和したりする介入方法や,防御的・補償的体験(Protective and Compensatory Experience : PACEs)(Hays-Grudo & Morris, 2020)の研究が進んでいる。さまざまな国・地域で実施されたACEs研究から,子ども時代にACEsを体験する人の割合は一般人口中の約4~6割に達することが報告されており(Sahle et al., 2022;三谷,2023),ACEs体験者への支援に関しては,精神医療・保健施設や社会福祉施設のみならず,学校・職場,一般の医療現場,司法・警察など,より広い領域でのトラウマインフォームドケア(Trauma-Informed Care : TIC)が有効であることが明らかになってきている(Hays-Grudo & Morris, 2020)。本稿では,ACEsの影響性に関する最近の研究成果を踏まえつつ,ACEs体験者への支援におけるTICの広がりに関する海外の状況について概観する。

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