特集 教科書には書いておらず,大学院でも教えてもらえない,現場で学ぶしかないありふれた臨床テクニック集
何が心理臨床なのか―それがわからないままに実践することの恐怖と魅力
桑原 知子
pp.14-18
発行日 2025年1月10日
Published Date 2025/1/10
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Ⅰ はじめに
心理臨床とは何をするものなのか,それをずっと考え続けてきた気がする。そして,それに対する答えが出ないまま,私は心理臨床を続けている。そんな恐ろしいことがあるだろうか。心理臨床は,人のこころに触れる。そんなこわくて繊細な営為なのに,「わからない」ままにやっていていいのだろうか。
そんな悩みを抱えながら日々を過ごす私に,「ベテラン」として,理論に留まらぬ「テクニック」を書いてほしいというのが,今回の依頼であった。少なくとも私は,「迷いもなく円熟した」という意味での「ベテラン」ではなく,また,後進に教授できるような「テクニック」を開示できるわけでもない。しかし,私が抱えてきた「葛藤」は,多くの心理臨床家に共有されることかもしれないとは思う。なので,「心理臨床とは何をするものなのか」という問いを抱えながら私が辿ってきた道を振り返り,特に,心理臨床の専門性と普遍性にスポットを当てながら,読者とともにこの問いについて考えてみたいと思う。
ここで,「ベテランではない」というのは,河合(1992)が『心理療法序説』で「『序説』と名付けたのは,まさにこれが『はじまり』であり,この後どのように発展してゆくのか,まだまだわからない」と述べたように,心理臨床は「わかった」と言えるようなものではないと思うからである。
しかし,そこに甘んじていてはいけないだろう。少しでも「わかる」ように努力したいし,言語化できるものがあるのなら,明らかにしていきたいと思う。

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