巻頭言
思いつくままに
依藤 進
1
1兵庫医科大学内科
pp.379
発行日 1974年5月15日
Published Date 1974/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202622
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現代の特徴の一つは権利意識が高まった事である。これに与って力があったのは戦後の教育であり,新聞,雑誌,報道機関一般といっても差支えはないであろう。おかげで今ではほとんど全ての人々が自分の権利や自分達の権利を主張し続けている。代議士は選挙の時だけ下僕であるが,当選すれば特権階級であり,労働者は日々その権利を主張して止まない。年中行事である順法闘争やゼネストも彼等の権利意識をいやが上にも高めている。もっと身近な所に目を向けても,妻は妻の権利を主張して,家庭の崩壊をかえりみない。離婚率の急激な増加が何よりもこの事を雄弁に物語っている。看護婦の二八闘争は彼女等の権利意識の表現であり,おかげで病院は機能を麻痺するか,解体しようとしている。患者が完全な診療を受ける権利を主張し,医者が自分達の健康を守る権利を主張した所に,救急医療や夜間診療の麻痺が現われる。国家が老人の権利を守ろうとして,老人医療の無料化を打出せば,大病院は老人であふれ,それ以外の人の入院は閉め出される。
ところでいったん人間に権利が与えられると,人間は益々その権利を拡大して行こうとする傾向を持っている。日本人は健康で文化的な生活を享受する権利があるといえば,健康で文化的な生活という事の意味を益々拡大して行こうと試みるのが普通である。
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