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人獣共通感染症はヒトの側から語られることが多い.たとえば狂犬病を例に挙げると,医学の立場からみれば感染源は犬に限定される.しかし,獣医学からみると狂犬病ウイルスはほとんどの哺乳類に感染するので,犬以外にも猫,キツネ,スカンク,アライグマ,コウモリなど多くの動物が狂犬病ウイルスの重要な感染源になっている.人獣共通感染症の感染源を1種類の動物に固定して考えていると,不意打ちを受けてしまうことがある.2017年に台湾で発生したヒトの狂犬病患者15例はイタチアナグマからの感染であった.このように,人獣共通感染症の感染源を幅広く獣医学側からみることも,その感染症を理解し,感染を防御するためには重要である.近年,医学と獣医学領域で話題になっている重症熱性血小板減少症(Severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)も,狂犬病と同様に,動物において広い宿主域をもつウイルス性疾患である(表1).これまでにSFTSウイルス(SFTSV)はシカやイノシシなどの野生動物,牛,ヒツジなどの家畜,犬や猫などの伴侶動物に感染することが明らかになっている.しかも,野生動物や家畜では不顕性感染していることが多い.SFTSはダニ媒介性の感染症であるために,ダニの活動時期には注意が必要である.しかし,ダニ以外にもさまざまな動物からヒトへ感染する可能性があることを念頭に置かなければならない.国立感染症研究所によると,2018年10月31日現在,わが国では391名のSFTS患者が届出られている.23府県からの報告があり,北上する傾向がある.2013年から2018年までの死亡者は60名にのぼり,致死率は約15%である.発症はダニが活動する5月から8月までに多くの届出があるが,10月まで多い年もある.2017年に野良猫に噛まれてSFTSを発症した女性が死亡した.同年,飼い犬と接触してSFTSを発症した男性は回復している.このように,SFTSはダニからの感染だけではなく,伴侶動物からの感染にも十分注意しなければならない状況になっている.SFTSVの検査はELISAによる抗体検査とPCRによる遺伝子検査を組み合わせて行われている.RT-LAMP法では1コピーまで検出できるという報告もある1).著者の所属する東京農工大学農学部附属国際家畜感染症防疫研究教育センターでは,国立感染症研究所と山口大学の検出プロトコールに従い,千葉県獣医師会と共同で伴侶動物を中心としたSFTSVの検査を実施している.2017年千葉県の飼い猫を対象に検査を実施したところ,すべて抗体および遺伝子が陰性であった(千葉県獣医師会年次大会で発表).国内では945頭の飼育犬のうち12頭が抗体陽性という結果も出ている(国立感染症研究所・IASR).SFTSには優れた総説が数多く発表されている.そこで,本稿では獣医領域の視点からSFTSの疫学を解説すること,2018年に発表された最新の論文についての情報を提供する.
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