- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
ランダム化比較試験の結果を考慮することなしに,日々の臨床で乳癌の術後薬物療法の治療方針を決定することはできない。一方で,ランダム化比較試験に登録された患者背景と目の前の患者の背景(例えばリンパ節転移の有無や年齢など)がずれていたり,試験の結果が決定的でなかったために,臨床試験の結果を臨床に適応する際に苦慮することは珍しくない。“n0 high-risk HER2陽性乳癌の術後治療でトラスツズマブの投与は1年必要か”を考える際も同様な限界がある。例えば試験の多くの対象はn0 high-riskだけでなく,n+とn0 high-riskであるし,複数あるランダム化比較試験のうち仮説が統計学的に検証されたのは1件だけである。論を進めるにあたり,術後治療におけるトラスツズマブの投与は,1年に対して2年の優越性が検証されなかったため,1年投与が標準であることをまず確認したい1)。次いで,短縮期間投与の有用性を検討するために,標準治療である1年投与と短縮期間投与を比較したランダム化比較試験が複数行われた。結果が公表されたものは,いずれも有効性(再発)を主要評価項目とした非劣性試験である。非劣性試験とは,ランダム化比較試験によって試験治療が標準治療と比べて臨床的に劣らないことを検証しようとする臨床試験である。試験で得られた結果の信頼区間(CI)の上限があらかじめ設定した値(非劣性マージンという)を下回ることで非劣性を検証するという方法論は確立されているものの,非劣性マージンの値をどれくらいに設定するべきか,非劣性が検証されなかった場合にどのように結果を解釈すべきか,という課題がある。今まで結果が報告されたトラスツズマブの短縮投与の期間は9週と6ヵ月であり,先に述べたようにひとつの試験のみで非劣性が検証され,残りすべてで非劣性は検証されなかった。しかしながら,短縮期間投与で心血管系の毒性は改善されたため,副作用の観点では短縮期間投与の利益は明らかである。そのため,投与期間の短縮によりどの程度再発率が増悪するおそれがあるのか,そしてそれは臨床的に受け入れられるのか,が検討の中心になる。具体的には,各々の臨床試験の結果から短縮期間投与の治療効果を推定し,その結果をn0 high-riskに当てはめることで,1年投与と短縮期間投与の治療効果の絶対的な違いがどの程度かを推定するという過程により,n0 high-risk HER2陽性乳癌の術後治療でトラスツズマブの短縮期間投与が正当とする論拠を述べたい。●本企画「誌上ディベート」は,ディベートテーマに対してあえて一方の見地に立った場合の議論です。問題点をクローズアップすることを目的とし,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません。・論点整理/南博信・「必要である」とする立場から/原文堅・「不要である」とする立場から/相原智彦
Medical Review Co., Ltd. All rights reserved.