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はじめに
入院患者の15~25%が尿道カテーテルの挿入・留置の処置を受けており,院内の尿路感染の75%以上はこの入院中の尿道カテーテルの挿入・留置に起因している1)。手術中・後や急性期疾患などの水分出納管理が必要な場合,泌尿器・生殖器疾患の術後に治癒を促進させる場合,尿閉や尿失禁のような排尿障害などにより頻回な一時的導尿が必要な場合,膀胱内に尿道カテーテルを留置し,持続的に採尿バッグに尿を排出させる2)。
この尿道カテーテル留置による主たる弊害の一つは尿路感染であり,留置期間の長期化により重篤化する。尿路感染の発症のメカニズムとして,カテーテル挿入口である外尿道口付近は皮膚粘膜移行部で,湿潤環境であるために多くの皮膚常在菌が存在し,挿入した尿道カテーテルを伝わり逆行性に尿道・膀胱へと移行する上行性感染がある。また,尿路感染が重篤化しやすいのは,解剖学的特徴による。通常,尿道から腎臓までは一連の粘膜で覆われ,無菌状態を保っている。尿道から腎臓までの粘膜層には血管が豊富であり,血管内に細菌が侵入すると,二次性の血流感染を引き起こし,敗血症にまで陥る可能性がある。Tambyahら(2000年)やNazarko(2008年)は,尿路感染患者の4%が二次性の血流感染を発生すると報告している3,4)。
尿道カテーテルの挿入・留置が尿路感染の機会を増大させており,この機会を最小限にすること,すなわち尿道カテーテルの挿入を避けることが,尿路感染の発生を防止する一番の感染予防対策である。しかし,原疾患の治療や症状により尿道カテーテルの挿入・留置がやむを得ない場合があり,その場合は挿入期間を可能な限り短縮する方策をとり,尿道カテーテルを早期に抜去することが重要となる。
それでも,やむなく長期にわたりカテーテルを留置しなければならない場合には,尿道カテーテル留置による感染リスクだけでなく,カテーテルに生じるバイオフィルムの形成も感染を助長させる要因となる。バイオフィルムとは細菌が固体表面あるいは気液界面において形成する構造体であり,バイオフィルム内では多数の細菌が集合体のように存在する。米国のNational Institutes of Health(NIH)の報告によれば,細菌感染症の80%以上にバイオフィルムが関与しているとされ5),日本で発生をしているカテーテル関連尿路感染の大半はバイオフィルムが要因であることが推察される。バイオフィルムによる感染は「バイオフィルム感染症」と称されるが,バイオフィルム内の細菌は抗菌化学療法や生体の防御機構に高い耐性を示すため,バイオフィルム感染症は治療が困難となる。そのため,各種のカテーテル,人工関節などの医療用デバイスを使用している患者でバイオフィルム感染症が疑われた場合は,それらのデバイスを除去することが根本的な治療法として選択される。
これまで尿道カテーテルのバイオフィルムの形成を予防し,尿路感染を予防するために,尿道カテーテルは様々な製品開発がなされてきた。カテーテルの素材やカテーテル部の抗菌コーティングなどである。本稿では,素材,コーティングによる尿道カテーテルの種類ならびにそれらの特性について述べると共に,コーティング素材の尿路感染における有効性の検討結果に関する知見について紹介する。
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