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背景と目的
高齢化とともに多種の疾患やフレイル等を要因として摂食嚥下障害患者数は増加している.摂食嚥下障害の罹患率は急性期総合病院では30%に達し 1),在院日数を延長させ,死亡リスクを高めるとともに,肺炎等で再入院する可能性も高いといわれている.摂食嚥下障害は疑いをもたないとそのリスクがある患者を同定することはできず,問診,身体所見の評価および摂食嚥下スクリーニング検査を含めた包括的な臨床的嚥下評価が必要である.臨床的嚥下評価の中で,患者にさまざまな組成の食物を与え,誤嚥や咽頭残留等の臨床的徴候を評価するのが摂食嚥下スクリーニングである.摂食嚥下スクリーニング検査の精度は,誤嚥等の問題をどのような徴候で判定するかによって大きく異なり,公表されている感度は0.62〜0.86,特異度は0.30〜0.96である 2).
嚥下は外からは見えない部分が多い体内の運動である.喉頭侵入,誤嚥のサインは,むせ,咳払い,声質変化等であるが,これらを呈さない不顕性誤嚥の患者が20~30%存在するともいわれており,機器を用いた検査で口腔〜食道までの諸器官の運動と食塊通過を確認することが求められる.現在,摂食嚥下機能検査のゴールドスタンダードとして,嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing;VF)と嚥下内視鏡検査(videoendoscopic evaluation of swallowing;VE)が広く用いられている.VEは喉頭ファイバースコープあるいは喉頭電子スコープを鼻孔から挿入し,上咽頭から食道入口部までの咽頭腔を観察する検査である.解剖学的構造の異常や分泌物の貯留,嚥下後の食物残留の状況を直接的に観察できること,造影剤を必要とせず通常の食物を使って観察ができること,VFのような放射線被曝の影響がないため,リハビリテーションの場面等で繰り返し評価する場合に向いていることが利点であるが,内視鏡挿入による不快感で患者が普段通りの嚥下をしない場合や, ホワイトアウトや内視鏡の曇り,視野の制限の影響で誤嚥を見落とす可能性があることを考慮する必要がある.検査で喉頭侵入/誤嚥や咽頭残留の有無を判定することは,直接訓練の可否を判断する材料となるが,それだけではなく,咀嚼中の舌根部の動き,流入してくる食塊の性状,食塊の流れ込みに対するホワイトアウト出現のタイミングや強さ,持続時間等から機能障害を診断し,その後の間接訓練を立案することが検査の重要な目的である.
スコープ先端位置と観察できる解剖学的構造を図1に示した.スコープを咽頭に挿入すると,まず食物を用いる前の状況を確認することができ,摂食嚥下障害の可能性を示唆する重要な所見が得られる.
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