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はじめに
文部科学省の報告 1)によると,学齢児のおよそ3.5%が読み書きに困難さを抱えている.学齢児は,口頭言語に加え文字言語をとおして言語を発達させながら,複雑な内容の学習に取り組んでいく.そのため,読みの困難が持続するとあらゆる分野の学習が阻害される.また,読むことは,論理的に考える力を養い,相手の心情を理解する等,子どもから大人までの長期的な発達に不可欠である2).
読みの困難さの要因として,アルファベット圏では,主に音韻能力の障害ととらえ,その結果として読み困難が生じると考えられており 3),日本でも同様の報告がある 4, 5).また,音韻障害に限らず,意味・統辞的なその他の言語学的側面の困難さ 6)や命名速度処理,視覚的注意,聴覚的処理といったその他の認知能力の障害を仮定し,読み障害が説明されてきた.
読みの困難さの背景要因は個人によって異なるため,認知・言語機能にわたる包括的な評価を通し中核的な問題をとらえ,指導につなげる必要がある.
これまでわが国においても読み書きに困難を示す児への指導法が示されている.春原 7)は仮名の読み書き指導と聴覚法による漢字の指導法を提案した.服部 8)はキーワード法を用いて単語の意味と文字を連合させる指導を,小枝ら 9)は,語彙を重点的に指導することの有効性を示した.また,ディスレクシア児は視覚的分析が定型発達児に比べ苦手であるとする報告 10)もあるため,文字形態への配慮も指導において必要と考えられている.最近では,読めないことを1つの要因やいくつかの要因の組み合わせに限らず,脳機能や認知機能の困難さであると複合的にとらえ,その特性に対して優れた側面を指導・支援することで子どもの読みの発達を促すことが重要視されている 11).
これら指導法による効果はそれぞれ報告されてはいるものの,学齢期のディスレクシア児に関する症例報告および指導前後の言語能力の変化の報告はまだ少ない.筆者らは,音韻の困難さとその他の言語・認知的苦手さをもつ学齢児に対し,音読・語彙・読解指導を行った.指導前後のデータを提示し,発達性ディスレクシア児への必要なアプローチを提案することを本報告の目的とする.
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