連載 栄養指導・栄養管理に活かしたい 食物繊維学の新常識⑦
腸管バリアシステム
鈴木 卓弥
1
Takuya Suzuki
1
1広島大学大学院 統合生命科学研究科
キーワード:
ムチン産生
,
タイトジャンクション
,
IgA
,
短鎖脂肪酸
Keyword:
ムチン産生
,
タイトジャンクション
,
IgA
,
短鎖脂肪酸
pp.97-102
発行日 2024年7月1日
Published Date 2024/7/1
DOI https://doi.org/10.32118/cn145010097
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はじめに
腸管は「内なる外」とも表現されるユニークな臓器であり,その粘膜表面はテニスコート1面分にも匹敵する.この広い粘膜面は,栄養素や機能性成分を効率的に消化・吸収する一方で,腸管内に存在する微生物や食事抗原に常時曝露されている.よって,腸管はこれらの異物を監視し,体内への侵入を防ぐための生体防御機構,すなわち腸管バリアシステムを備えている.腸管バリアシステムが正常に機能していれば,粘膜内への異物の侵入は最小限に制限されるが,何らかの原因によって腸管バリアが脆弱化すると,粘膜内に侵入した異物によって過剰な免疫応答が引き起こされ,慢性的な炎症状態にもなる.また,これらの異物は血流を介して遠隔の組織にも到達するため,腸管バリアの損傷は全身性疾患の要因にもなる.実際に,炎症性腸疾患や過敏性腸症候群のような疾患だけでなく,糖尿病や肥満のような代謝性疾患,肝疾患,リウマチ,慢性腎臓病などの発症や進展にも腸管バリアの損傷がかかわることが知られる.因果関係が十分にわかっていない疾患もあるものの,腸管バリアの損傷が多くの疾患で認められることは大変興味深い.このような観点から,食事や食品成分によって,腸管バリアシステムを適切に維持し,疾患の予防につなげることをめざした研究が進められている.
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