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はじめに
前回第8回の「メタボとフレイルの関連性」で,米国ウィスコンシン霊長類研究センターで1989年から行われているアカゲザルのエネルギー制限の試験から,中年期のメタボと高齢期のフレイルの関係性について説明しました.今回は,その試験について詳細をお話ししたいと思います.
エネルギー制限により加齢による疾病の発生を遅らせるという概念は,少なくとも3世紀前に遡ることができ,貝原益軒(1630~1714年)が83歳のときに著した『養生訓』には,健康を維持し,長寿を延ばすための一つの方法として,胃が満腹になる前に食べるのをやめることが記されています.いわゆる「腹八分目」です.
科学的な方法で最初にエネルギー制限による寿命延伸効果を証明したのは,コーネル大学のMcCayらの研究グループが発表した1935年の論文になります1).このグループが,ラットの寿命がエネルギー制限によって顕著に延長することを実験で示したのを契機として,老化遅延・寿命延長のメカニズム関連の研究が急速に進展しました.栄養失調をともなわないエネルギー制限により,実験用齧歯類のほとんどの系統で寿命の中央値および最大値が延長され,加齢に関連した疾患や障害の発症も遅らせることができます2).また,単細胞の酵母,線虫,無脊椎動物など,ほとんどの短命な種でもエネルギー制限により寿命が延長されます.
これらの短命な生物種は,遺伝子操作が比較的容易であること,広範な遺伝学的・発生学的特徴付けが可能であること,低コストであること,長寿研究の完了までの期間が大幅に短縮されることなどから,エネルギー制限の基礎となるメカニズムの研究に適しています.しかしながら,重要な疑問として,エネルギー制限の生物学的性質および老化や疾病の発症を遅らせる効果が,ヒトやヒトの健康にも当てはまるかどうかということが不明なままでした.
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