連載 ケースから学ぶ臨床倫理推論・23
先天性疾患を有した新生児の手術
加部 一彦
1
Kazuhiko KABE
1
1埼玉医科大学総合医療センター新生児科
キーワード:
ダウン症
,
出生前診断
,
代理意思決定
,
医療ネグレクト
,
対話
Keyword:
ダウン症
,
出生前診断
,
代理意思決定
,
医療ネグレクト
,
対話
pp.144-147
発行日 2025年10月11日
Published Date 2025/10/11
DOI https://doi.org/10.32118/ayu295020144
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Case ダウン症に合併する先天性疾患の治療に両親の同意が得られないケース
在胎40週,出生体重3,120gで出生した男児.妊娠,分娩経過に異常はなく,出生時のアプガースコアは1分後9点,5分後9点と新生児仮死はない.
児の母親は39歳,父親は43歳.10年前に結婚後,不妊治療を続けてきたが,2回の流産の後,今回がはじめての出産となる.非侵襲性出生前遺伝学的検査(これまでわが国では「新型出生前診断(non-invasive prenatal genetic testing)」との通称が用いられてきたため,本稿では,その略称の「NIPT」を用いる)による出生前診断を受けており,その結果は「異常なし」と説明されている.
出生後,児の特徴的な顔つきと,嘔吐が続くことから新生児集中治療室(neonatal intensive care unit:NICU)へ搬送入院となった.児はダウン症に特徴的な顔つきをしており,他の身体所見からもダウン症が強く示唆され,確定診断のために染色体検査が行われた.また,入院後の検査で先天性十二指腸閉鎖と診断され根治手術が必要となり,両親にその旨の説明が行われたが,両親からは「手術は承諾しない」との返事があった.主治医をはじめスタッフが数回,説明を繰り返したが,両親の意思は固く,治療の承諾が得られないまま日数が経過している.この間,児には経静脈栄養が続けられているが,今後の成長のためには,根治手術は不可欠である.
この状態が続くなか,医療チームのなかからは児童相談所に通告すべきであるとの意見が出された.

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