医療データシェアリングの活用実例と今後の制度的方向性

Use cases of medical data sharing and future system directionality

　医療データシェアリングは学術研究と産業の両面で大きな価値を創出している．国際的ゲノム研究，新型コロナウイルス感染症（COVID-19）パンデミック対応での迅速なデータ共有，国内バイオバンク連携による希少疾患研究などが学術面での成功例である．産業面では，製薬企業とバイオバンクが連携した創薬研究，医療機関とAI開発ベンチャーによる診断支援AI開発，健保組合・保険会社によるデータ駆動型ヘルスケアサービスなどが進んでいる．しかし価値を最大化するには，公益と私益のバランスを考慮したデータアクセスモデルの確立，国際的相互運用性とデータ品質の確保，医療情報二次利用に関する法制度の調和と簡素化が必要である．さらに，データ共有への学術的評価制度の改善や組織間競争の緩和も課題である．高齢化と医療費増大に直面する日本では，患者中心のガバナンスと社会的便益を最大化する制度設計により，持続可能なデータエコシステムの構築が求められている．