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Case 出血リスクを伴う緊急手術のケース
総合病院の救急外来に,82歳の男性患者Aが救急車で搬送されてきた.患者Aは激しい腹痛を訴え,発熱と嘔吐がみられ,血圧も低下している.救急外来担当のB医師が各種の検査を行ったところ,腸閉塞から腸管壊死と腹膜炎を発症していると診断された.救命のためには緊急で開腹手術を行う必要があると判断された.
既往歴を確認したところ,患者Aは大動脈弁狭窄症を背景とした後天性von Willebrand病と診断されており,血液凝固機能に問題があり,これまでも消化管出血で頻繁に受診していることがわかった.大動脈弁狭窄症の手術が予定されているが,大量出血の危険性があるとして,事前に凝固因子製剤を投与するなど血液凝固機能を改善する準備が必要であると説明されていた.なお,後天性von Willebrand病のガイドライン上は,手術前の凝固因子補充については十分なエビデンスがないとして推奨は示されていない.現状は個々の患者の状態や各施設の方針に委ねられている面が大きいようである.
B医師は,患者Aに対し緊急手術の説明を行った.出血のリスクがあるが,手術のタイミングを逃すと生命に危険が及ぶ可能性があるため,可能なかぎりの止血対策を講じて緊急手術を行う必要があると伝えた.患者Aは意識が朦朧としており,「痛いからなんとかしてくれ」と繰り返すのみであった.過去の心臓外科担当医の診療録には,意思疎通には問題がないこと,大動脈弁狭窄症の手術に対しては前向きであることが記載されている.
B医師が手術の準備を指示したところ,同僚のC医師や看護師から「手術で大出血して亡くなってしまうことがあったらどうするのか」「高齢の患者であり,保存的な治療の選択肢もあるのではないか」との意見が出された.B医師はどのように考えたらよいだろうか.

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