Japanese
English
第5土曜特集 脳科学研究が推進する うつ病の病態・診断・治療の発展
病態
逆境的養育体験のうつ病に与える影響とそのメカニズム
The impact of adverse childhood experiences on depression and its mechanisms
戸田 裕之
1
Hiroyuki TODA
1
1防衛医科大学校精神科学講座
キーワード:
逆境的養育体験(ACEs)
,
気分障害(うつ病,双極性障害)
,
エピジェネティック修飾
,
ストレス応答系(HPA軸)
,
FKBP5
Keyword:
逆境的養育体験(ACEs)
,
気分障害(うつ病,双極性障害)
,
エピジェネティック修飾
,
ストレス応答系(HPA軸)
,
FKBP5
pp.1071-1077
発行日 2025年3月29日
Published Date 2025/3/29
DOI https://doi.org/10.32118/ayu292131071
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
本稿では,幼少期の逆境的養育体験(ACEs)が気分障害の発症および病態進行に及ぼす影響について,分子生物学的機序から臨床的意義まで概説する.ACEsは,うつ病をはじめとする気分障害の発症リスクを有意に上昇させ,その影響は曝露の程度に応じて段階的に増大することが示されている.分子生物学的基盤のひとつとして,ACEsはストレス応答系に関与する遺伝子群のエピジェネティックな修飾を介して作用することが明らかとなった.特に,グルココルチコイド受容体(GR)遺伝子およびFKBP5遺伝子の発現調節異常は,HPA軸の機能障害を惹起し,ストレス脆弱性の増大をもたらす.また,筆者らの動物実験により,母子分離ストレスが扁桃体におけるニューロテンシン受容体1(NTSR1)シグナルおよび海馬におけるレチノイン酸受容体α(RARα)シグナルの異常を介して,成体期の情動行動異常および神経発達障害を引き起こすことが示された.これらの知見は,ACEsの予防と早期介入の重要性を示唆している.今後は,エピジェネティック修飾の可逆性に着目した治療戦略の開発と,遺伝子型に基づく個別化医療の実現が期待される.

Copyright © 2025 Ishiyaku Pub,Inc. All Rights Reserved.