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第1土曜特集 神経変性疾患の分子病態解明と治療法開発
疾患別の最新研究
多層的動的均衡システムの破綻として捉えるALSと治療戦略
Reframing ALS in view of the collapse of multi-layered dynamic stability and emerging treatment concepts
山岸 拓磨
1
,
須貝 章弘
1
,
小野寺 理
1
Takuma YAMAGISHI
1
,
Akihiro SUGAI
1
,
Osamu ONODERA
1
1新潟大学脳研究所臨床神経科学部門脳神経内科学分野
キーワード:
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
,
ロバスト性
,
脆弱性
,
トレードオフ
Keyword:
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
,
ロバスト性
,
脆弱性
,
トレードオフ
pp.717-722
発行日 2025年3月1日
Published Date 2025/3/1
DOI https://doi.org/10.32118/ayu292090717
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筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,明確な遺伝的背景を持たない孤発性例が大半を占め,微細な細胞内分子プロセスや,遺伝子からRNA,タンパク質品質管理までを含む多階層的ネットワークを介した複雑な病態を示す.TDP-43は,RNA代謝や液-液相分離(LLPS)などを通じてロバスト性を確保しながらも,核輸送障害や特定の遺伝子変異などの条件下で均衡を崩し,病態を引き起こす.これに代表されるように,本来の精妙な恒常性維持機構が,進化的トレードオフの下で特定条件下に脆弱性を顕在化させ,神経変性へと傾く点にALSの難攻不落さが潜む.ALSは,単純な原因因子論によらない,動的均衡の破綻として捉えることができ,これに基づいた新たな治療・研究戦略が求められる.言い換えれば,ALSは複雑な生体ネットワークが織り成す弾力的バランスの極限状態であり,その背後に潜むメカニズムを明らかにすることは,生物学的な恒常性維持の原理や神経変性疾患への新たな理解のみならず,将来的な克服の道をひらく可能性がある.

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