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加齢は多くの慢性疾患の主要な危険因子である.そして,加齢によりこれらの疾患が発症する原因には細胞レベルの老化が関与していると考えられている.2011年に遺伝子工学的に老化細胞特異的にアポトーシスを起こし,体内から老化細胞だけを取り除くことができるように設計されたモデルマウスが作製された1).このモデルマウスから老化細胞を除去すると,動脈硬化や腎障害などの加齢関連疾患の発症が有意に遅れ,運動耐容能が向上するなど,健康寿命も延伸するという結果が報告された1,2).この結果を受け,老化細胞を除去してしまうという治療である “senolytics(セノリティクス)” は一躍大きな注目を集めた.世界中でセノリティクスとして作用する薬剤の探索が行われ,最初に報告されたのはダサチニブ(dasatinib)とケルセチン(qercetin)のカクテル療法(D+Q)である3).このカクテル療法は老化細胞で特異的に亢進している抗アポトーシス経路SCAPs(senescent cell anti-apoptotic pathways)を標的として,老化細胞のみに細胞死を惹起することができることがわかった4).以降,このSCAPsを標的とした薬剤は現在までに十数種類同定され,そのセノリティック効果が確認されている5).D+Qをはじめとするいくつかの薬剤はすでに臨床試験も開始されているが,これらの薬剤のターゲットである抗アポトーシス経路は正常細胞でも存在しており,安全性の観点からより特異性の高いセノリティクスの開発が望まれている.セノリティクスの特異性を高めるために,①老化細胞により特異的な分子の探索と,②オフターゲット効果の少ない治療が研究されている.現在までに,老化細胞に特異的な分子としてGPNMB(glycoprotein nonmetastatic melanoma protein B),PD-L1(programmed death-ligand 1),uPAR(urokinase-type plasminogen activator receptor)などの分子が同定され,それに対しそれぞれワクチン治療,抗体治療,キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞治療といった免疫系を利用したオフターゲット効果の少ない治療が開発された.本稿では,近年報告された老化細胞を標的とした免疫系を利用した老化細胞除去治療について概説する.
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