Japanese
English
第1土曜特集 HIVの発見から40年――医学はどう戦ったか,これからどう戦うのか
はじめに
Introduction
潟永 博之
1
,
岡 慎一
1
,
満屋 裕明
2
Hiroyuki GATANAGA
1
,
Shinichi OKA
1
,
Hiroaki MITSUYA
2
1国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター
2国立国際医療研究センター研究所
pp.645-645
発行日 2023年3月4日
Published Date 2023/3/4
DOI https://doi.org/10.32118/ayu28409645
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- Abstract 文献概要
ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)の発見から40年が経過した2023年の今,果たして医学はHIV/後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome:AIDS)との戦いに勝利したのかと本特集は問う.急速な発展を遂げた多剤併用療法はHIV/AIDSの臨床病態を大きく正の方向に変えた.そうした意味でHIV/AIDSに対する人類の戦いは少なくとも初期的な勝利を収めたといってよい.HIV感染症がかつて程の恐怖の病気でなくなったという意味では,勝利という言葉も不適切ではないと思われる.抗HIV療法がウイルス学的失敗に帰結することは間違いなくまれとなり,かつて治療継続を困難にしていた重篤な副作用もほぼ解消された.スティグマを負わされ,迫害を受け,医療からも疎外された感染者の絶望と,進行する免疫不全を傍観するだけで,なすすべを持たなかった臨床家と研究者の無力感は過去の遺物となりつつある.しかし翻ると,“死と隣り合わせの感染” という恐怖感の消退とともに,感染リスクを伴う行為への抵抗や躊躇が減退した.リスク行為への警鐘という道徳・啓蒙活動は果たせるかな奏効せず,われわれは治療薬の一部を予防に用いるという,より現実的な選択をした.この選択は新たなHIV感染者を減少させる一翼を担って余りあるが,一方で薬剤耐性HIVの出現や他の性感染症への曝露の機会の増加など,注意深い対応が改めて求められる.
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