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高齢者の食欲不振は,さまざまな要因により発生する.その一つに,服薬している薬剤により嚥下機能の低下を引き起こすことがある.本症例では,双極性障害の基礎疾患がある入所者が,紅皮症の治療のために服薬したプレドニゾロンによって食欲が低下し,体重減少を引き起こした.そのため,義歯の使用が困難となり,歯科医師が義歯作成,嚥下機能評価を行って入所者の食支援が可能になった一例を報告する.【症例】基礎疾患に双極性障害のある80代前半の男性が紅皮症を発症し,皮膚科の治療を優先するために抗精神病薬や内科治療薬を中止し,プレドニゾロンを服用した.それによって気分低下や不眠,便秘がみられた.体重が減少し,全身の筋肉量の減少にともない嚥下障害を発症し,義歯の使用もできなくなり,粥の粒でむせるためミキサー粥に変更した.【経過】本人の身体状況は時間の経過とともに改善し,本人が「流動食(ミキサー)のお粥はお腹が空く」と訴えたため,日本老年歯科医学会認定医の問診を受け,義歯を作成し再評価した.口腔領域の不随意運動により,食品をうまく処理できず誤嚥が生じやすくなっていた.義歯が動くためほとんど咀嚼ができず,本人が望む形態での食事提供は不可能であった.一口量の調整や介護食器の使用により環境を整え,離水に配慮した全粥に変更するなどの介入を行った.その後,全粥を食べることにより嚥下障害も改善し,介入6ヵ月後には全粥からミックス粥への変更が可能となった.【考察】今回は,服薬に起因した食欲不振によって体重減少を引き起こし,嚥下障害を生じた症例であった.そのため,歯科医師による嚥下評価をはじめとした介入を行ったところ,改善が可能となった.歯科医師を含めた多職種による支援を行うことが,嚥下障害のある高齢者の食支援に重要であると考える.
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