特集 周産期の薬物療法 update 2025 産科編
各論:産科的病態
分娩時出血過多(弛緩出血)
成瀬 勝彦
1
,
柴田 英治
1
,
多田 和美
1
NARUSE Katsuhiko
1
,
SHIBATA Eiji
1
,
TADA Kazumi
1
1獨協医科大学産科婦人科学教室
pp.936-939
発行日 2025年8月10日
Published Date 2025/8/10
DOI https://doi.org/10.24479/peri0000002249
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はじめに
分娩時出血(postpartum hemorrhage:PPH)は世界的にみて母体死亡の最大の原因であり,産科の歴史で最も対峙すべき疾患であったことはいうまでもない。世界保健機関(WHO)1)はPPHを経腟分娩で500 mL以上,帝王切開で1,000 mL以上の出血と定義しており,一次性PPH(分娩後24時間以内)は最も致死性が高く,母体死亡の14%以上を占めるとされ,現在でもその対策は世界中の産科医療にとってきわめて重要である。適切な対応により先進国では出血による母体死亡事例が減少しているが,日本では分娩施設が分散している2)ことからPPHへの初期対応能力に格差が生じている懸念があり,未だに母体死亡原因のトップとなる年がある3)(一方で緻密な妊婦健診により間接産科的死亡が少なく,妊産婦死亡率そのものは世界でも最低レベルを維持している)。薬物療法は分娩時出血に対する重要な対処法であり,すべての産科医療者が熟知していなければならない。

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