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免疫システムは,免疫学的寛容により自己組織を攻撃せず,侵入してきた微生物などの非自己を攻撃し排除する生体防御機構である。ところが時にこの免疫学的寛容が破綻し,自己成分を非自己と認識し,自己抗体や自己反応性T細胞などにより組織や臓器が傷害される自己免疫疾患を生ずる。自己免疫疾患のなかで,腎組織を傷害し臨床で遭遇する機会が多い代表的な疾患は,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)と抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)関連血管炎(assoclated vasculitis:AAV)の2つである。SLEは1957年の抗核抗体の発見を契機に自己免疫疾患の1つとしての疾患概念が確立した。一方,AAVの概念確立は,抗核抗体の発見から25年後の1982年に血管炎所見を伴った巣状壊死性糸球体腎炎の患者血清中にANCAが発見されたことを鏑矢とする1)。SLEの病態研究に関しては,当初免疫蛍光抗体法により腎糸球体に多彩な免疫グロブリンや補体が染色されたことより,免疫グロブリン,補体,免疫複合体の関与についての研究が盛んに進められた。AAVに関しては,当初ANCAの標的抗原の探索,ANCAによる好中球活性化機序を中心に研究が行われた。その後,SLEとAAVの病態研究は,免疫学的寛容の破綻という視点から,抗原性獲得機序,自己抗体産生機序,局所における免疫細胞の病態に果たす役割など多方面から取り組まれてきた。その成果の1つとして,AAVにおける免疫システムの悪循環(vicious cycle)が挙げられる。好中球は,侵入微生物に対して,好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)とよばれるDNAやミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase:MPO),プロテイナーゼ(proteinase:PR)-3などの細胞内抗菌蛋白を含むクロマチン繊維網を細胞外に放出し微生物を補足し殺菌する自然免疫機構をもっている。ところがAAVではANCAにより過剰に活性化された好中球から自己組織である血管内皮に対してNETsが放出され血管の壊死を生ずる。一方で,放出されたNETs内のMPOは変性し非自己と認識されANCA産生につながる。産生されたANCAは再び好中球を過剰活性化するという免疫システムの負のスパイラル(negative spiral)が形成される2~4)。SLEにおいてもNETs内のDNAが自己免疫反応を惹起する可能性が報告されている5)。両疾患の病態形成に関しては,T helper(Th)1,Th2,Th17,濾胞性T細胞(Tfh)や制御性T細胞(Treg)およびCD8陽性T細胞[細胞傷害性T細胞cytotoxic T lymphocyte:CTL)]や活性化B細胞などの機能異常や炎症性サイトカインとの関連などに関しても精力的に研究が進められている。また,腎局所で活性化された免疫細胞と腎局在細胞の間でクロストークが行われ,腎組織が傷害され得ることも判明してきた6)。
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