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本邦は依然として胃癌高頻度国であるが、日本人の胃癌年齢調整死亡率は1960年代には低下傾向に入っている。これには診断・治療の貢献が大きいが、罹患率低下の影響も大きいとみている。本稿では戦後から現在までのH.pyloriの感染状態を、(1)H.pylori猖獗時代(~1960年代)、(2)H.pylori感染減少時代(1970年代~2000年)、(3)H.pylori積極除菌・強力制酸薬時代(2000年以降)に分け、病理・病因の立場から日本人胃癌の変化を考察する。(1)の時代に関して、1955~1974年の癌研究会附属病院手術例を前半10年と後半10年に分けて(年齢構成は同じ)胃癌組織型の分化型/未分化型比を調べると、男女とも比は低下傾向にあり、日本人胃癌の減少速度は未分化型より分化型癌のほうが大きいと推測された。また、戦後から今日までの切除胃癌の占居部位(UML)を調べると、1950年代→1970年代にL領域癌が大きく減少し、この部位に多い分化型癌が大きく減少していることが推定された。(2)の時代は、(1)の時代の傾向が継続していると思われるが、低頻度国(米国・西欧)で注目されているU領域癌、Barrett癌も含めた食道胃接合部(EGJ)癌の動きに注目した。手術材料では、本邦はU領域癌が増加しているがEGJ癌はまだ増えていない。U領域癌の増加には、胃癌診断技術向上が関与している可能性もある。(3)の時代では、強力な胃酸抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)が広く用いられるようになり、H.pylori感染のベールが剥がされつつある。代表として、PPIなどの制酸薬が関与していると思われるfundic gland neoplasmおよびいわゆる「未感染胃」に発生する未分化型胃癌を紹介する。最後に、今後注意すべきこととして、(2)の時代で取り上げた上部胃癌、特にEGJ癌(Barrett癌を含めて)の動向をあげ、また、これまでマイナーであった種々のリスク因子と胃癌との関連性診断を正確に行うことの重要性を指摘したい。
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