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アレルギー疾患の有病率が増加し,今や国民の約半分が罹患する国民病となり,アレルギー疾患対策基本法が施行され,アレルギー疾患により損なわれる生活の質を改善する対策の実行が重要な課題となっている。アレルギー疾患は生活環境病と認識され,衛生状態の変化(衛生仮説),アレルゲンの増加や大気汚染など種々の生活環境の変化がその有病率の増加や重症化に関与することが示唆されているが,この数十年における食習慣の変化,ダイエット仮説も提唱されている。我々が日常摂取している食品にはアレルギー疾患の発症病態において促進的に作用するものと抑制する機能性物質が含まれる。促進するものとしてn-6系不飽和脂肪酸や食塩が挙げられるが,それぞれロイコトリエン4系の産生,気管支平滑筋の収縮亢進を促す。一方,抑制するものとして,ビタミンA,C,Eやセレニウム,銅,亜鉛は抗酸化作用を有し,ビタミンEはIgE産生の抑制,マグネシウムは気管支平滑筋の弛緩や肥満細胞の安定化,n-3系不飽和脂肪酸はロイコトリエン4系の産生抑制作用を有する。ビタミンDは免疫調節,プロバイオティクスは免疫調節や免疫寛容を誘導し,フラボノイドなどのポリフェノールは抗酸化や肥満細胞の活性化抑制作用を保持している。 Devereuxらは,英国における経時的な食品の消費量を調査し,食習慣の変化がアレルギー疾患の有病率を高めている可能性,いわゆるダイエット仮説を提唱した。抗アレルギー作用を有する食品に比して,アレルギーを促進する食品の摂取が相対的に増加し,特に野菜や果物からの抗酸化物質の摂取低下(酸化仮説),n-6系不飽和脂肪酸の摂取が増加する一方,n-3系不飽和脂肪酸の摂取低下(脂質仮説)を指摘している。食習慣の変化がアレルギー疾患の有病率の増加や症状の重症化に関与しているのであれば,逆にその是正が発症抑制や症状の軽減に繋がり,アレルギー対策の1つとなろう。疫学研究において,食品のアレルギー疾患の発症や重症度との関与を検証するために,比較対照試験や縦断的試験,また妊娠時や授乳時における母親の食品摂取量とその乳幼児のアレルギー疾患の発症を検討する縦断的疫学研究が進められている。さらに介入試験として,機能性物質の摂取がアレルギー疾患の症状軽減に有効であるのか(3次予防),妊娠時や授乳期の機能性食品の摂取が乳幼児のアレルゲンへの感作やアレルギー疾患発症の予防効果であるのか(1次予防)を検証する試験も進められている。2000年初頭の妊娠後期における母親の,また生後6カ月までの乳児のLactobacillus GG株の摂取で,2歳時でのアトピー性皮膚炎の発症が半分に抑制された報告はセンセーショナルであった。しかし現時点では,どの機能性食品においてもアレルギー疾患に対する食事療法や予防法として推奨するにはエビデンス不足である。例えばCochrane Libraryにおいて,アトピー性皮膚炎に対しての魚油(n-3系不飽和脂肪酸ドコサヘキサエン酸),ビタミンD,E,亜鉛,セレニウムやプロバイオティクスなど,喘息に対しては,魚油,塩分制限,セレニウムやビタミンC,D,Eの有効性が系統的に評価されているが推奨には至っておらず,今後の更なる臨床試験での評価が待たれる。