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特集 細菌の進化から考える抗菌薬耐性
序 -進化し続ける耐性菌-
The evolving drug-resistant bacteria
富田治芳
1
Tomita Haruyoshi
1
1群馬大学大学院医学系研究科生体防御機構学細菌学分野 教授/薬剤耐性菌実験施設 施設長
pp.18-19
発行日 2013年12月25日
Published Date 2013/12/25
DOI https://doi.org/10.20837/2201401018
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抗菌薬の使用によって耐性菌が選択され増加した。そのため耐性菌を制圧するには抗菌薬の使用を中止すればよい。明快な答えだが,細菌感染症のもっとも効果的な治療法が抗菌薬の投与である以上,それを実践することはほぼ不可能であろう。一部の強毒菌においては感染症の予防として,ワクチン,トキソイドが用いられ,また,治療においても抗毒素血清が効果をあげている。しかしながら,多くの病原性細菌,特に多剤耐性が問題となる弱毒菌(日和見感染菌)においては宿主の獲得免疫が成立せず,現実的には抗菌薬治療に頼らざるを得ない。将来,ヒトの免疫系を自由にコントロールする方法が確立され,宿主の生体防御能力を,局所的,微生物特異的に強化させることで各種感染症を制御することが可能になるかもしれない。しかし残念ながら,それはいまだ現実的ではなく,遠い未来のこと,あるいは夢物語かもしれない。抗菌薬の使用は必然的に耐性菌を選択的に増加させる。耐性遺伝子を獲得した菌,また,変異により耐性化した菌が抗菌薬の存在する環境中ではより有利に増殖し耐性菌が拡散する。また,異なる種類の抗菌薬の使用は菌の多剤耐性化も必然的に招く。これらは菌の環境への適応,すなわち菌の進化でもある。人類による抗菌薬の使用は菌の適応と進化を促す特殊環境と選択圧の提供に他ならない。多剤耐性菌はこの人為的な特殊環境下において,もっとも適応し進化した細菌と言える。