講座
菌の耐性
美甘 義夫
1
1東大
pp.18-21
発行日 1951年8月10日
Published Date 1951/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200122
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細菌類の耐性といつても種々な耐性がある。温熱や寒冷といつた物理的の條件の變化に對して,普通より抗抵の強いもの,例えば熱耐性又は耐寒性であることもあり,種々な機械的操作に對する抵抗即ち耐性も同一菌でも殊によつて一樣ではない。しかし實際問題として菌の耐性が重要視されるのは,治療に用いられる藥物に對する耐性である。細菌感染の治療特に内科的治療には,細菌の耐性がなる可く小さくて人體の組織細胞に害のない,言葉を代えれば組織細胞の耐性の大きなものでなくてはならない。これが今日化學療法劑として用いられる藥劑の根本理念である。例えばズルフォンアミド劑,ペニシリン,ストレプトマイシン初め其他種々の抗生物質といわれるものは,みなこの理念に一致するものである。
今日廣く用いられるこれらの化學療法劑や抗生物質の他の特徴は,これらが細菌類に對して多くの場合決して殺菌的でなく,ただ單に發育阻止的に働くことである。人體の内に浸入した細菌は,發育増殖するからこそ一定の病氣を起させるのであるが,發育増殖せずに體内でまごまごしているものは,白血球や其他の喰細胞に喰われるか,又は種々な微妙な生體の防衞機構により處理されて病氣は起らずに濟んでしまう。殺菌劑と呼ばれるものは,直接細菌を殺してしまうもので,多くの殺菌劑は細菌を殺すに足る濃度では,同時に人體の組織細胞も殺してしまうから,特定の場合でなければ,人間の治療に用いることはできない。
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