特集 不妊・不育症女性の合併症・併存疾患をどう扱う?
6.血栓性素因
出口 雅士
1
,
谷村 憲司
2
,
蝦名 康彦
3
,
山田 秀人
2
M. Deguchi
1
,
K. Tanimura
2
,
Y. Ebina
3
,
H. Yamada
2
1神戸大学大学院医学研究科地域社会医学・健康科学講座地域医療ネットワーク学分野
2同研究科外科系講座産科婦人科学分野
3北海道大学大学院保健科学研究院
pp.1605-1614
発行日 2020年12月1日
Published Date 2020/12/1
DOI https://doi.org/10.18888/sp.0000001568
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血栓性素因のうち抗リン脂質抗体症候群のみ,不育症の明らかな原因といえる。そのほかの血栓性素因としては,わが国ではプロテインS低下,凝固第Ⅻ因子低下が代表的である。これらの(抗)凝固因子低下と不育症には弱い関連があるものの,治療が妊娠予後を改善するエビデンスは乏しい。不妊症と血栓性素因との関連についてはさらにエビデンスに乏しく,血栓性素因のある不妊・不育症患者の全例に抗凝固療法を行うべきではない。
抗リン脂質抗体症候群については確立された治療法(低用量アスピリンとヘパリンの併用)があり,不育症(生化学的妊娠の反復を含む)や妊娠34週未満早産,胎児発育不全,妊娠高血圧症候群,常位胎盤早期剝離,HELLP症候群などの妊娠合併症があれば,不妊治療施設でもプレコンセプションケアとして積極的に診断検査基準に含まれる抗リン脂質抗体(aPL)を測定する。
一方,血栓症の既往からみつかった血栓性素因についてはまったく対応が異なり,不妊治療に伴う卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の徴候がみられた場合や妊娠が明らかとなった場合は,積極的にヘパリンを含む抗凝固療法を行う必用がある。
また,凝固検査の評価においては,本検査が非常に繊細な検査であり,採血・検体処理手技により検査値が大きく変動する可能性があることに留意し,より正確な凝固検査を実施する体制を整備していくことが重要である。
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