特集 産婦人科医必携 最新の細菌・真菌感染症に対する薬の使い方と留意点Ⅱ
各論
4.トキソプラズマ感染症に対する薬の使い方
出口 雅士
1
,
谷村 憲司
1
,
山田 秀人
2
M. Deguchi
1
,
K. Tanimura
1
,
H. Yamada
2
1神戸大学大学院医学研究科外科系講座産科婦人科学分野
2手稲渓仁会病院不育症・ゲノム医療センター
pp.137-145
発行日 2024年2月1日
Published Date 2024/2/1
DOI https://doi.org/10.18888/sp.0000002859
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トキソプラズマは細胞内寄生性原虫感染症であるが,免疫不全状態での感染を除くと,感染した小児や成人が強い症状を呈することはなく,宿主免疫から逃避して中枢神経系や筋肉内にシストを形成して生涯にわたり持続感染する。持続感染に移行しても,免疫抑制状態にならなければ再活性化し虫血症を起こすとはなく,既感染例に対しては通常治療の必要はない。AIDSなどの免疫不全患者では,脳に潜伏していたシストが再活性化し脳症を起こすなどして,ときに致命的となるため治療を要する。眼トキソプラズマ症は非症候性先天性感染児の再活性化で生じることも多く,病変の部位と重篤度によっては治療を要する。産婦人科医が最もかかわるのは妊娠中の感染で,免疫正常の女性では母体にほとんど症状は出ないものの,ときに胎児感染を生じて児に重篤な障害を残すため,妊娠中の初感染は母体に症状がなくても早期治療介入の適応がある。治療薬剤は1950年代から使用されているピリメタミンとスルファジアジンの併用がスタンダードである。ただピリメタミンには催奇形性があるため,妊娠16週未満では胎盤感染の予防目的でスピラマイシンが用いられる。スピラマイシンは胎児移行が悪く,胎児治療に適さないため,胎児感染と診断された場合は16週以降,ピリメタミンとスルファジアジンの併用が行われる。ピリメタミンとスルファジアジンは国内では限られた施設で研究的治療としてのみでしか使用できないため,妊娠中の初感染を予防すること,初感染(疑い)例にはスピラマイシンをできるだけ早期から使用することも重要となる。
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