特集 わかりやすい TRPイオンチャネルと眼疾患─2021年ノーベル生理学・医学賞関連企画─
2 水晶体
中澤 洋介
1
1慶應義塾大学薬学部衛生化学講座
キーワード:
TRPV channel
,
水晶体上皮細胞
,
Naイオン調節
,
水晶体静水圧制御
,
調節力維持
,
後発白内障予防
,
老視予防
Keyword:
TRPV channel
,
水晶体上皮細胞
,
Naイオン調節
,
水晶体静水圧制御
,
調節力維持
,
後発白内障予防
,
老視予防
pp.317-323
発行日 2022年4月5日
Published Date 2022/4/5
DOI https://doi.org/10.18888/ga.0000002573
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
水晶体は,一見するととてもシンプルな組織であるが,内部での複雑な相互作用によって特徴的な形状と屈折率勾配を保ち光の散乱を最小限に抑えている。また霊長類の水晶体はダイナミックにその厚さを調節することで近方視力および遠方視力を保ち,この調節力が加齢に伴い減少すると老視が引き起こされる。水晶体の調節力維持には水晶体内の水挙動が重要であることが近年明らかにされており,水の流動性を保つことによって水晶体屈折率勾配を維持している1)。水晶体内部の水挙動は,前嚢部あるいは後嚢部から入り,水晶体核部周辺を通って赤道部付近で排泄されることが報告されているが,水晶体は無血管無神経であるため,水晶体自身が水動態を作り出すことで外部からの栄養素補充や老廃物排泄に寄与している2)。この水の流れはNa+の濃度勾配に従って形成されており,Na+の濃度依存的に水チャネルであるアクアポリンを介して受動輸送される。Na+は水晶体辺縁部に発現しているNKCC1トランスポーター(ナトリウム・カリウム・塩素イオン共輸送トランスポーター)もしくはNa+/K+-ATPaseによって水晶体内外とやりとりをすることで維持されている(図1)。このNKCC1トランスポーターとNa+/K+-ATPaseは,それぞれTRPV(Transient Receptor Potential channels, Vanilloid)1とTRPV4によって制御されていることが報告されおり3),TRPV1とTRPV4のdouble-armedフィードバックの相互作用によって水晶体は組織体積(特徴的な形状)と蛋白質-水比率(屈折率勾配)を調節している(図1)。
Copyright © 2022, KANEHARA SHUPPAN Co.LTD. All rights reserved.