特集 わかりやすい TRPイオンチャネルと眼疾患─2021年ノーベル生理学・医学賞関連企画─
3 網膜剥離病態悪化のメカニズム─ミュラー細胞膨化に伴うTRPV4異常活性化
柴崎 貢志
1
1長崎県立大学大学院 人間健康科学研究科 細胞生化学講座
キーワード:
TRPV4
,
網膜
,
網膜剥離
,
体温
,
機械刺激
,
ミュラーグリア
Keyword:
TRPV4
,
網膜
,
網膜剥離
,
体温
,
機械刺激
,
ミュラーグリア
pp.325-329
発行日 2022年4月5日
Published Date 2022/4/5
DOI https://doi.org/10.18888/ga.0000002574
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ヒトなどの哺乳類は脳内の温度を37℃付近に保つために多くのエネルギーを費やしている。しかし,なぜ脳の温度を37℃に保つのかという理由にはあまり目が向けられてこなかった。我々はヒトの賢さの一因が,脳の温度が一定に保たれることにあるのではないかという大胆な仮説を設定し,その検証実験を進めている。この実験で注目している分子は温度センサーTRPV4(transient receptor potential vanilloid 4)である。このTRPV4は体温程度の温度(34℃以上)により活性化する。マウスを用い,TRPV4の脳内発現を詳しく調べたところ,海馬においてTRPV4が非常に高い発現をしていることを見出した。電気生理学的実験を行った結果,脳内温度によりTRPV4が恒常的に活性化し,神経細胞が興奮しやすい土台環境を産み出していることを突き止めた1)。この知見は,脳内温度を情報源として,これを翻訳し,神経情報伝達に活かす機構の存在を意味している。現在,細胞種特異的TRPV4ノックアウトマウスを用いて,この機構の解明を進めている。つい最近,ストレスによるうつ病の発症には,心因性発熱に伴う海馬神経幹細胞TRPV4の異常活性化が関与することも見出した2)。この機構をブロックすれば,新規の抗うつ薬開発につながると期待される。
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