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は じ め に
手術部位感染(SSI)の割合は医療安全指標の一つとしてよく取り上げられる.国内では,厚生労働省の行っている院内感染対策サーベイランス(JANIS)が最大で,整形外科で代表される一部の術式が登録されている.ただし,JANISでは整形外科の先生方が普段気にされているさまざまなSSI対策が網羅されていない.残念ながら,JANISで国内整形外科のSSI対策の現状を詳細に把握することは困難であり,近年,日本骨・関節感染症学会が主導で人工膝・股関節置換術および脊椎インストゥルメンテーション手術部位感染の全国調査(J-DOS)を開始した.これらのデータから,国内SSI対策の現状と将来的にわれわれが推し進めるべき方向性が導き出されることが期待される.
SSIのもう一つの問題は,その医療コストである.われわれの行った国内手術の99%をカバーするレセプトデータベース解析で,メチシリン耐性ブドウ球菌(MRS)によるSSIの1例あたりの入院治療費は,SSIを起こしていない症例に比べ骨折でUS$35,693,人工膝関節でUS$24,667,人工股関節でUS$24,252,脊椎除圧でUS$11,630,脊椎固定術でUS$28,858超過していた1).さらに入院日数はそれぞれ89.5日,74.9日,75.0日,40.6日,61.1日長くなっていた.多くの疫学調査でMRSはSSI全体の1/4程度である.さらに,整形外科は上記以外にも多数の術式が存在する.これらを総じると,途方もない医療経済コストにつながる.高騰する医療費と経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でダントツに長い急性期入院日数はわが国が抱える社会的に深刻な問題であり,SSIは確実にその原因の一端となっている.整形外科は手術件数が特に多い.そのため,いかにSSI数を減らし,入院期間を短縮していくかが重要である.
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