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はじめに
われわれの行った国内手術の99%をカバーするレセプトデータベース解析で,メチシリン耐性ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus:MRS)による手術部位感染(surgical site infection:SSI)1例あたりの入院治療費は,SSIを起こしていない症例に比べ骨折でUS$35,693,人工膝関節でUS$24,667,人工股関節でUS$24,252,脊椎除圧でUS$11,630,脊椎固定術でUS$28,858上回っていた3).また,入院日数もそれぞれ,89.5日,74.9日,75.0日,40.6日,61.1日長くなっていた.高騰する医療費とOECD加盟国の中でダントツに長い急性期入院日数は,社会的に大きな問題であり,SSIは確実にその原因の一端となっている.そのため,いかにSSIの数を減らし,効率的な治療で入院期間を短縮していくかが重要である.
米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の改訂ガイドライン(以下,CDC2017)の冒頭で,「SSIのおよそ半数はエビデンスに基づいた対策を行うことで予防できる」と記載されている1).SSI対策は世界的にも医療経済的に大きな問題となっており,さまざまな団体が予防ガイドラインを作成し始めた.そのため,現在はSSI対策に関するさまざまな良質なエビデンスを入手できる(表 1).しかし,対象とするターゲットが異なり,引用する文献や評価方法が異なれば,どうしてもガイドラインごとに少しずつ主張は異なってしまう.このような現象は特にエビデンスが脆弱な領域で起こりやすい.それほど深い知識をもたず,ただ単に最新のエビデンスを探すためだけにガイドラインを利用する方々にとって,手に取るガイドラインごとに主張が異なってしまえば,最終的にどのガイドラインを信じてよいかわからなくなってしまうだろう.SSI対策は完全に情報過多の状況となってしまい,交通整理が必要である.特に脊椎外科はほぼ清潔手術であり,大きなインプラントを用い,比較的侵襲の大きい手術を行うという特徴がある.そのため,引用すべきエビデンス,手術中に注意すべき点,周術期に優先すべき対策は,その他の診療科と大きく異なってくる.
整形外科領域では世界中の専門家で国際的なコンセンサスを作成する試みがなされた6,11).実臨床で問題となるさまざまなシチュエーションを厳選し,それらに対して現時点で考えられる最善の対策をまとめた.残念ながら,その多くは科学的根拠が不十分であるが,そのような状況でも少しでも正確な判断が行えるよう,Musculoskeletal Infection Societyが中心となってDelphi法に従ったコンセンサスを形成した.2013年に初版が作成され11),2018年に大幅な改訂が行われた.改訂版では,脊椎グループを含むさまざまな専門領域が新設され,全体で650を超えるコンセンサスを200,000件以上の文献を引用しまとめており,日本語でのダイジェスト版も入手可能である(以下,MSIS2018)6).それぞれの設問に対して現時点でどの程度のエビデンスがあり,エビデンスが不足しているかが一目瞭然となっており,膨大な情報で,かつ実践的な内容になっている.本稿ではこのMSIS2018も参考に,特に脊椎外科医として知っておくべきSSI対策の最新エビデンスを,誌面の許す限りさまざまなガイドラインを紹介しながらまとめていきたい.
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