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はじめに
厚生労働省の行っている院内感染サーベイランスで,国内脊椎固定手術の手術部位感染(surgical site infection:SSI)発生割合は,依然として高い.データ収集されている整形外科術式の中でもダントツに多く,改善の兆しがない.また,その原因菌をみるとMRSAやMRSなどの耐性菌が多く,その傾向はここ数年変わっていない.すなわち,インストゥルメンテーションを多用する成人脊柱変形手術こそ,最も手厚いSSI対策が必要な術式といえる.われわれの行った国内手術の99%をカバーするレセプトデータベース解析で,メチシリン耐性ブドウ球菌(MRS)によるSSI 1例あたりの入院治療費は,SSIを起こしていない症例に比べ脊椎除圧でUS$11,630,脊椎固定術でUS$28,858上回っていた4).また,入院日数もそれぞれ40.6日,61.1日長くなっていた.高騰する医療費とOECD加盟国の中でダントツに長い急性期入院日数は,社会的に大きな問題であり,脊椎SSIは確実にその一因となっている.そのため,いかにSSIを減らし,治療を効率化して入院日数を短縮していくかが重要である.
2017年に米国疾病予防管理センター(CDC)がガイドラインを改訂した(以下,CDC2017).その冒頭で「SSIのおよそ半数はエビデンスに基づいた対策を行うことで予防できる」と記載されている1).現在,さまざまなガイドラインからSSI対策に関する良質なエビデンスを入手できる(表 1).しかし,これらのガイドラインは対象とするターゲットが異なり,引用する文献や評価方法が異なるため,どうしても少しずつ主張が異なる.特にエビデンスが脆弱な領域では,完全に相反する推奨が行われることもあり,逆にどのガイドラインを信じればよいかわからなくなるのではないかと思う.本領域は完全に情報過多となってしまっており,交通整理が必要である.特に成人脊柱変形手術は,さまざまなインプラントを多用し,侵襲が大きい点で整形外科領域の中でも際立ってSSIリスクが高い.しかし,脊椎手術をターゲットとしたエビデンスは限られているという問題も残る.
2018年に,世界中の専門家で国際的なコンセンサスを作成する試みがなされた7,16).実臨床で問題となるさまざまなシチュエーションを厳選し,最善の対策をまとめた.しかし,やはり科学的根拠が不十分であるという点が問題となった.Musculoskeletal Infection Societyが中心となりDelphi法に従い作成した本コンセンサスは,全体で650を超えるコンセンサスを200,000件以上の文献を引用しまとめており,日本語でのダイジェスト版も入手可能である(以下,MSIS2018)7).本改訂では,脊椎グループが新設された.現時点でどの程度エビデンスがあり,また不足しているかが一目瞭然であり,膨大でかつ実践的な内容になっている.本項ではMSIS2018も参考に,特に脊椎外科医として知っておくべきSSI対策を厳選し,誌面の許す限りご紹介させていただく.
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