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は じ め に
変形性関節症(OA)は,関節軟骨に対する力学的負荷の蓄積により,関節軟骨の変性・破壊,また骨の増殖性変化を生じる疾患である.現在その疾患概念は,軟骨だけでなく関節を構成する滑膜,骨髄,軟骨下骨の変化などさまざまな関節構成体の変化が複合的に病態に関与し,OAの発症や進行,疼痛の発生などに関与すると考えられている1).
近年,前述の関節構成体のなかで軟骨下骨がOAの病態において重要な役割をもつことが認識されるようになった.軟骨下骨は,関節軟骨の恒常性維持に重要な役割を担っていると考えられ,OAの発症早期から軟骨下骨のリモデリングや代謝変化がすでに存在すると考えられている.これまで軟骨変性と軟骨下骨変化のどちらが先行して起こるかがしばしば議論されてきた.さまざまな動物実験によって,関節軟骨の変性/摩耗は力学的負荷のみでは生じず,軟骨下骨,滑膜から生成される炎症性サイトカインや蛋白分解酵素などを介して生じることが報告されており,関節軟骨の変性および骨の代謝異常は比較的早期から相互に関連し,経時的に進行すると考えられている.また一方で,軟骨下骨はOAにおける疼痛の発生,またその重症化と密接に関連することがわかっている.その端緒として2001年,Felson2)らは膝関節OAにおける軟骨下骨領域でのbone marrow lesion(BML)と膝関節痛との関連について報告し,以後さまざまな研究でBMLとOAにおける疼痛の関連を示す結果が示されている3).OAの軟骨下骨では,骨代謝回転の亢進や骨芽細胞などの活性化,それに伴いケモカインが生成され,軟骨-軟骨下骨間の破綻したバリアから軟骨内へ疼痛関連物質が伝播することで疼痛の発生に関与する可能性が指摘されている.2013年にReginsterは,骨吸収抑制および形成促進作用のあるストロンチウムを用いた1,683例の膝OAの治験(Strontium ranelate Efficacy in Knee Osteoarthritis trial:SEKOIA)の結果,OA進行と疼痛の抑制が得られたと報告している4).OAの発生,また疼痛の要因は多岐にわたり,単一の組織にその要因を求めることは困難であるが,そのなかでも軟骨下骨は前述のOAの発生,進行,また疼痛との関連において非常に重要な役割を担っており,軟骨下骨における質的,また構造的変化と臨床像との関連を評価することは臨床上非常に有意義であると考えられる.
股関節OAは,一次性OAと外傷,骨形態異常,感染などのなんらかの要因に続発する二次性OAに分類される.日本人における股関節OAの80%以上が寛骨臼形成不全(developmental dysplasia of the hip:DDH)を基盤とした骨形態異常を伴う二次性OAであり,寛骨臼側の荷重面積が狭いために応力の集中が生じ,比較的早期にOAを発症する.その結果,骨頭は外上方へ移動し,さらに荷重面積が狭小化することでOA進行につながる.そのため,これらDDHに伴う股関節OA例に対する治療には,寛骨臼,また症例に応じて大腿骨側の骨形態異常を是正することが,OAの進行,また疼痛の増悪を予防するうえで重要である.一方,股関節領域においても,OAの病態,疼痛の発生において重要な役割をもつ軟骨下骨での質的,構造学的変化と股関節OAの臨床像との関連が明らかとなれば,前述した骨形態異常の矯正とあわせて股関節OAの病態に則した有用な治療の一助になる可能性がある.
これまで,ヒトin vivo骨梁構造解析に関する報告は生検標本による研究がほとんどであったが,近年,三次元デジタルCTデータによる骨梁構造解析についての研究が散見されるようになり,骨梁構造解析による骨質診断の有用性が示されるようになった5).Multi-detector row CT(MDCT)は,多列の検出器を有する臨床用CTであり,短時間で高解像度の画像を得ることが可能となり,解析用ソフトウェアを用いることで骨梁構造の解析が可能となった.現在までに,骨粗鬆症患者の脊椎の骨梁構造の解析や,薬剤の治療効果判定などに用いられ,その有用性を示す報告がなされている6,7).本稿では,MDCTを用いた骨梁構造解析から,寛骨臼形成不全を基盤とした股関節OA患者の骨梁構造と股関節OA/進行との関連,また疼痛との関連についての研究結果を示し,本症に対する治療の展望について概説する.
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