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は じ め に
現在,本邦では4人に1人が65歳以上という超高齢社会を迎えており,加齢に伴う退行変性を基盤とした骨・関節疾患が今後も増加することが予想される.中でも下肢関節は荷重関節であるため,かかる力学的ストレスは非常に大きく,痛みが生じると歩行障害を起こし,日常生活動作(ADL)の制限や生活の質(QOL)の低下をきたす.
股関節の慢性痛をきたす疾患のなかでもっとも頻度が高いのは変形性股関節症(股OA)である.本邦での有病率は1.0~4.3%と報告されており,80%以上が発育性寬骨臼形成不全による二次性股OAである1).
股OAの明確な診断基準は存在しないが,問診,臨床所見,画像所見を総合的に判断することにより診断が可能である.股OAの単純X線所見は,関節症の進行に伴い,関節裂隙の狭小化,骨棘・骨嚢胞の形成,骨頭の変形,軟骨下骨の硬化像が認められる.しかし,必ずしもX線像上の関節症病期や形成不全の程度が疼痛の程度と一致するわけではなく,臨床現場ではその乖離に遭遇することも多い.従来OAは,関節軟骨が物理的に擦り減る “wear and tear arthritis” と考えられてきたが,近年では骨や滑膜,筋肉なども病態形成に重要な役割をはたし,関節全体の問題(joint failure)との概念に変化してきている2).
股関節の関節内および関節周囲構造のMRIによる画像評価は,ソフトウェアとハードウェアの向上により,この10年で著しい発展を遂げている.従来は,両側の股関節を含めた広範囲の撮像を行い,主に特発性大腿骨頭壊死,腫瘍性病変,一過性大腿骨頭萎縮症,単純性股関節炎,Perthes病,大腿骨頭すべり症などの診断,評価に使用されてきたが,最新のコイルや撮像シーケンスにより,関節軟骨,骨髄病変,靱帯,関節唇,滑膜などの描出を目的とした,片側のみの高分解能撮像が行われるようになってきた.それに伴い,いくつかの半定量的MRIスコアリングシステムが開発され,股関節構造の詳細な形態学的評価が可能になり,股OAの研究における重要なツールとなってきている.
本稿では,股OAにおける形態学的半定量的MRIスコアリングシステムの詳細と,MRI所見と痛みの関係について概説する.
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